鹿島アントラーズのリーグ優勝に貢献した選手たちにフォーカスを当て、今季の取材で得た選手や関係者の証言から振り返るコラムを連載中。第4回は、プロ2年目のシーズンとなった濃野公人を取り上げる。9得点を挙げてJリーグベストイレブンに選出された昨季からは一転、わずか1得点に留まったが、今季の経験と成長は必ずやこれからの濃野のキャリアに活きてくるだろう。(取材・文:加藤健一)[1/2ページ]
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飛躍のルーキーシーズンを終えて、「自分に足りないものは何なのか」
「自分のストロングと課題は何なのか」
右膝外側半月板を損傷してシーズンを途中で終えることになった昨季の終盤、濃野は自分に問いかけていた。
9ゴールを奪えた理由を辿れば、相手の想像を裏切る大胆さや、恐れずに出ていく勇気があった。
「それを1年目だけじゃなくて、2、3年目も続けていかないといけない」
人生初だという3ヶ月にも及ぶ空白期間は、自分を客観視するための時間になる。
「自分に足りないものは何なのかをしっかり見つめ直す3か月になったので、自己分析できるようになった」
昨季はチーム状態が目まぐるしく変わる中、31試合に出場して9得点を挙げた。ルーキーながらJリーグベストイレブンにも選出される活躍を見せ、今季はさらなる飛躍が期待されるシーズンとなった。
そんな中、鬼木達監督が就任する。新指揮官は濃野が課題に真正面から向き合うきっかけになる。
「鬼木さんはこれまで当たり前だと思っていたことをしっかり言語化される監督」
なぜそのポジションを取るのか、なぜそこにボールを出すのか。「だから数的優位が作れるのか、あの状況では前にボールを出していいんだ、っていうのが明確になりました」と濃野は言う。
それまで濃野が持っていた感覚が言葉になることで再現性が生まれる。それを理解して吸収していくことで、選手としてまだ伸びていけるという実感が生まれた。
「自分が成長するために…」そんな中で訪れた悲劇
学びと成長のプレシーズンを終え、シーズンが開幕した。開幕節の右サイドバックには小池龍太が入り、濃野はベンチから試合の行方を見守った。
「誰が入ってきてもサッカーに競争はつきものですし、そこに囚われすぎるのもよくない。僕は自分が成長するために1回1回のトレーニングに臨むだけ」
濃野はキャンプのときそう話していた。小池という強力なライバルの存在よりも、「まずは自分の成長にフォーカスしたい」という意識をより強くしていた。
だが2人の立場は固定されることなく、併用されることも同時にピッチに立つこともあった。戦況によって右サイドバックと右MFの縦関係を入れ替えながら、お互いの良さを生かすやり方が試される。スタートは濃野がSB、小池が一列前でも、試合の流れの中で自然に立ち位置が変わっていく。
そんな中で迎えた4月のある日、濃野の右膝は再び悲鳴を上げる。
「最初はそんなに、2か月もかかるなんて言われてなくて。あとちょっとで復帰できるかも、というのをズルズル来た」
古傷の状態は一進一退で、クラブハウスと自宅を往復する日々が続いた。全体練習から離れ、チームの快進撃をスタジアムではなくリハビリルームから見つめる時間も長かった。
昨秋の離脱期間で「やっぱりサッカー選手は試合に出てナンボだと気付かされた」と言っていただけに、今回の再発は精神的なダメージも大きかった。
「チームの活動とはちょっと離れてたんで、自分のことでいっぱいいっぱいでした」
それでも、チームのため、仲間のため、濃野はピッチに戻ってきた。
「(チームメイトが)優勝を目指せる状態を作ってくれている。だからこそ、今度は自分がバトンを繋がなきゃいけない」
「100%になることはないんで」怪我と向き合いながらピッチに帰ってきた
約2カ月の離脱を経て、サンフレッチェ広島との一戦で濃野は帰ってきた。1点を追いかける展開で投入され、「昨日の練習でも、自分が入るときは負けてるとき、点が欲しいときだなって感じていた」と話す。
「久しぶりにカシマスタジアムに立てて嬉しかったです」と復帰に安堵する一方で、「まだ万全ではないですけど、100%になることはないんで」とも口にする。
「今後もうまく付き合っていかないといけない怪我だと思う。良くなってきたのもそうですし、(ようやくプレーできる)形になってきたっていう感じですね。いかに状態を上げていくかだと思います」
完全には戻らないかもしれない膝と、これからのサッカー人生をどう付き合っていくか。その覚悟を決めてホームのピッチに足を踏み入れた。
コンディションは少しずつ上向いていった。8月には中3日の2連戦にフル出場し、「走る距離もスプリントの回数も、サイドバックとしては生命線。数値としても伸びてきているし、試合の中で感じる身体のキレも徐々に戻ってきている」と手応えを口にした。
「暑い中でも練習中から誰よりも走る」という意識は、以前から変わらない。守備への意識を高めながらも、以前のように背後へ飛び出し、ゴール前に顔を出すシーンも少しずつ戻ってきた。
怪我で離れている間にも、チームは歩みを止めなかった。舩橋佑や津久井佳祐といった若い選手たちが台頭し、総力戦で勝ち点を積み上げていく。



