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田部井悠には叶えたい願いがある。弟の涼と共に。レイラック滋賀FCで始まる物語の新章。「また同じJリーグの舞台に」【コラム】

シリーズ:コラム text by 藤江直人 photo by Getty Images

レイラック滋賀、田部井悠
レイラック滋賀の田部井悠【写真:Getty Images】



 J3・JFL入れ替え戦の第2戦が14日に行われ、1-1のドローに終わった。この結果、2戦合計4-3としたレイラック滋賀FCが悲願のJリーグ入りを果たした。田部井悠は、喜びを噛みしめると同時に、すでに来シーズン以降を見据える。そこに写るのは、弟である涼の背中。二人三脚で歩む双子に、叶えたい願いがあるからだ。(取材・文:藤江直人)[2/2ページ]
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Jリーグ参入が近づき周囲に変化「経験がなかった」

レイラック滋賀
クラブ史上初のJリーグ入りを果たしたレイラック滋賀【写真:Getty Images】

「群馬では正直、実力差を感じていました。逆に考えれば、そのときの悔しさをずっと抱いている意味で、群馬には感謝しています。来シーズンは同じJ3なので、成長した姿を見せられるように頑張りたい」

 田部井が育成型期限付き移籍で加入した2023年は、クラブ名がMIOびわこ滋賀から現在のレイラック滋賀へ改称。3年でのJ3参入を合言葉に、2022シーズンのJFLで最下位だったチームが刷新された。

 2023シーズンは最終節で引き分けて3位に後退し、入れ替え戦への出場を逃した。昨シーズンは前半戦の低迷から、7月末に就任した角田監督のもとで最終的には4位にまで盛り返した。

 チームの躍進とともに田部井が感じていたスタンドの変化は、沼津との入れ替え戦で確信に変わった。

「Jリーグがだんだんと近づいてくるにつれて、ファン・サポーターの数も増えてきました。入れ替え戦の第1戦で9000人を超える方々がスタジアムに来ていただいたのは、本当に勇気づけられる光景でした」



 第2戦を2日後に控えた12日。食事を取るために出かけたレストランで心を震わされた。

「僕はチームのジャージを着ていたんですけど、そのときに『レイラック、頑張ってください』と声をかけていただいたんです。いままでそういう経験がなかったので驚きましたし、本当に励みになりました」

 そして夢をかなえ、歴史を変えた。

 喜びをかみしめながら、秋春制で行われる2026/27シーズン前の来年6月に27歳になる田部井は、まだ果たせていない“Jリーグ出場”は通過点だと力を込めた。

「涼に追いつけるように…」

前橋育英、田部井悠
前橋育英高校時代の田部井悠【写真:Getty Images】

「僕ももう若くないので、ここからJ1へステップアップするとなったら1年ごとに滋賀を上げていくか、あるいは自分が上がるかしかない。まずは試合に出て結果を残し続けて、どんどん上にいきたい」

 視線の先にはリーグ戦と入れ替え戦で力を与えてくれたファン・サポーターがいる。

「もっと滋賀のみなさんを巻き込んで、もっともっとスポーツの魅力やサッカーの楽しさを知ってほしい。僕自身もこれまでエールをもらってきた分、みなさんに恩返しをしたい気持ちが強いんです」

 岡山へ完全移籍した昨シーズンから大好きな「14番」を背負い、J1へ初めて挑んだ今シーズンはボランチを主戦場に25試合に出場。初ゴールもマークした涼のまぶしい背中も、もちろん見失わない。



「カテゴリーは違うけど、また同じJリーグの舞台に立てる。涼に追いつけるように頑張りたい」

 涼がゲームキャプテンを務めた岡山がベガルタ仙台を破った昨シーズンのJ1昇格プレーオフ決勝を、実は田部井は岡山まで足を運んで観戦していた。

 そして、今シーズンは兄の悲願達成を涼が目に焼きつけた。

 お互いの存在を刺激に変えながら、切磋琢磨してきた田部井ツインズのサッカー人生。約2年半もの時間をかけて、JFLからはい上がった田部井のJへの帰還とともに、兄弟が紡ぐ物語は新たな章へ入っていく。

(取材・文:藤江直人)

【著者プロフィール:藤江直人】
ふじえ・なおと/1964年、東京都渋谷区生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後の1989年に産経新聞社に入社。サンケイスポーツでJリーグ発足前後のサッカー、バルセロナ及びアトランタ両夏季五輪特派員、米ニューヨーク駐在員、角川書店と共同編集で出版されたスポーツ雑誌「Sports Yeah!」編集部勤務などを経て07年からフリーに転身。サッカーを中心に幅広くスポーツの取材を行っている。サッカーのワールドカップは22年のカタール大会を含めて4大会を取材した。

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【了】
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