2025シーズンの明治安田J1リーグは、鹿島アントラーズの9季ぶりとなる優勝で幕を閉じた。鬼木達監督が指揮を執る今季の鹿島はどんなチームだったのか。昨季からの変化にも触れながら、『森保JAPAN戦術レポート』の著者でもあるらいかーると氏がその戦いを振り返っていく。(文:らいかーると)[1/2ページ]
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鈴木優磨の能力を最大化
鹿島アントラーズ、優勝おめでとうございます。シーズンの序盤にこちらのサイトで「ひょっとするかもしれない」と書いた鹿島が優勝したことは個人的に嬉しい限りです。
そのときにも書いていた「耐えきる守備力と理不尽なストライカーと困ったときのセットプレー」で最後までやりきるとは恐れ入りました。今回はそんな鹿島について改めて考えてみようの会です。早速ですが、始めて行きたいと思います。
最終戦で見せたように、鹿島のボール保持は、配置の優位性を示すこともあります。「示すこともある」と書いた理由は示さないこともあるからです。
配置の優位性を示すときの鹿島の可変は、サイドバックの片方を残すことを特徴としています。大抵の場合は右サイドバックが残ることが多いですが、右サイドバックの小池龍太が前線に出張することもあります。どちらのサイドバックもポリバレントに振る舞うことができる鹿島のスタイルは世界ではスタンダードになりつつあることもまた現実です。
終盤戦では左サイドバックが中盤や前線に加わることが多かったです。その理由は左サイドハーフで試合に出場していた鈴木優磨の最大化のためでしょう。鈴木の能力を最大化するためには、彼からポジションの縛りをできるだけ取り除く必要があります。
終盤戦に左サイドバックを務めた小川諒也や小池は、鈴木の立ち位置によって、内側と外側を使い分け器用さを見せていました。怪我で離脱中の安西幸輝も同じ仕事をこなすことができていました。
なお、左サイドコンビの立ち位置が低い場合は、セントラルハーフが前線に飛び込んでいく場面も多かったです。鈴木の周りで様々な調整が必要なことは昨年から変わらない現実となっています。鈴木を開放するために周りの選手が立ち位置を調整することは別に悪いことでもなんでもありません。
一番の成長株は植田直通。鹿島アントラーズのやり過ごす術
立ち位置だけではなく、個々のプレーの質が上がっていることも見逃せません。「蹴る・止める」を経験済みの知念慶は言うまでもなく、三竿健斗もパスを受ける仕草、パスを受けてからのコントロールが上達し、ボールを簡単に失わなくなっています。
一番の成長株は植田直通でしょう。明らかにボールが止まるようになった植田は顔を上げて選択肢をさらに選べるようになってきていて、味方に時間とスペースを配ることができるようになってきています。
一方で配置のずれをまるで利用しない戦い方もできるところが鹿島の強さに繋がっています。例えば、配置がかみあうなかで、敢えて配置をずらさずにそのまま試合を進めていくこともあります。自然と守備の基準点が揃う状況なので、各地でデュエルが繰り広げられることになるでしょう。そんなときに局地戦を作ることが鹿島はできます。
欧州のトップレベルでも起きている現象ですが、サイドハーフの選手が内側に移動しながらボールを受けてボールをサイドから中央へ方向転換したり、サイドハーフは相手を背負いながらボールを受けたりすることで、攻撃をやり直すプレーを鹿島も志向しています。
鈴木やチャヴリッチのような相手を背負えそうな選手だけではなく、松村優太も果敢に取り組んでいるので、チームとしての決まりごとになっているのでしょう。
また、中央で競り合うレオ・セアラと動く空中戦の的になる鈴木へのロングボールも多いです。相手によっては、ロングボールからのセカンドボール争いや一気に前線での質勝負に持ち込むこともできます。つまり、地上戦で相手に捕まっていてもどうにかなるサイドエリアとロングボールによる前線の局地戦勝負で鹿島は試合を過ごすことが多くなります。
このように鹿島は自分たちの型にはまらなくてもそれなりにやり過ごす術を持っています。さらに、Jリーグで流行している短期間にアクションが連続するような局面も嫌がらないことが特徴と言えるでしょう。
ヴィッセル神戸や京都サンガF.C.との強度対決も正面から受け入れる度量があります。特に京都戦の肉弾戦はえげつなかったです。ただし、相手の勢いに少し押されすぎてしまうところは玉に瑕ですけど。
鈴木優磨の最適化。鹿島アントラーズの解決策は…
前線にボールが届かないときに、前線のスペシャルな選手が列を降りてボールを受けてゲームメイクに取り組む姿は全世界で見ることができます。チームで最も上手な選手にすべてを委ねたほうが早い説です。鹿島では昨年から鈴木に委ねたほうが早い雰囲気は確かに出ています。
ランコ・ポポヴィッチ時代は鈴木と愉快な仲間たちが結成されていました。仲間隼斗、師岡柊生、名古新太郎で構成された4トップは鈴木優磨の動きに合わせて、自分たちの立ち位置を調整できる選手たちでした。ただし、戦術的に正しくてもゴールを奪う部分に関しては、正しさだけではゴールを奪うことはできません。
実際にゴール数を眺めると、鈴木の15に対して、残りの3人の合計が12。こうなると、鈴木がゴールから離れることのデメリットが目立つことになってしまいます。さて、この問題にどのような解決を図るかが今季の鬼木監督に課せられた問題でした。
今季の解決策の第一歩がレオ・セアラの獲得でした。鈴木がゴール前から離れてもレオ・セアラがいれば問題はないという解決策です。鈴木をゴール前に閉じ込めるのではなく、他のストライカーを連れてくることで問題の解決を狙います。開幕当初は2人の役割が曖昧であったが、試合を重ねるごとに最強の2トップの様相になっていきます。
しかし、鈴木がゴール前からいなくなれば、レオ・セアラが少し孤立することになります。鈴木の移動を補完するような選手も今季はいなくなっていました。



