
2015シーズンに監督として対戦した曺貴裁監督と吉田達磨監督【写真:Getty Images】
1993年、Jリーグ元年に柏レイソルで始まった縁は、立場や距離が変わっても途切れることはなかった。指導者として対峙し、時に励まし合いながら、それぞれの道を歩んできた曺貴裁監督と吉田達磨氏。33年の歳月を経て、再び同じチームで時間を共有することになった2人の関係性は、京都サンガF.C.に何をもたらすのか。(文中一部敬称略)(取材・文:藤江直人)[2/2ページ]
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「僕自身が曺さんのサッカーが大好きだから…」

談笑する曺貴裁監督と吉田達磨監督(2015年5月)【写真:Getty Images】
吉田は言う。「その後もずっと付き合いを続けてきました」と。
そして運命の2015年5月14日が訪れる。
湘南を率いて4シーズン目になる曺と、柏の強化部ダイレクターから監督に昇格した吉田。監督として迎える初対決を前にして、ホームの日立柏サッカー場(現・三協フロンテア柏スタジアム)のロッカールームで、吉田は選手たちにこんな指示を送っている。
「決して長いボールを蹴らずに、自分らしく中を縫ってパスをつないでいこう」
攻守両面で相手よりも人数をかける「湘南スタイル」を確立して久しい湘南に対して、対戦チームの多くがロングボールを最終ラインの背後に蹴り、背走させる攻略法で臨むようになっていた。
しかし、吉田はお互いのストロングポイントを真っ向からぶつけ合う攻防を望んだと後に語っている。
「僕自身が曺さんのサッカーが大好きだから、逃げずに全力でぶつけ合ってほしかったんです」
果たして、スリリングな攻防の応酬となったファーストステージ第12節はスコアレスドローに終わり、試合後の公式会見では両監督がくしくも「清々しかった」という言葉をお互いに残した。
舞台をShonan BMWスタジアム平塚(現・レモンガススタジアム平塚)に移したセカンドステージ第5節は湘南が3-0で快勝。しかし、湘南と柏での指揮官対決は7月29日の一戦が最後になった。
柏は10月下旬に、就任1年目の吉田監督がシーズン後に退任すると発表する。理由として「いまの体制では来シーズンの飛躍は望めない」とするなど、契約を1年残す吉田監督の実質的な解任に踏み切った。
ほどなくして吉田監督の携帯電話が鳴る。受話器の向こう側から響いてきたのは曺監督の声だった。
「曺さんからは『一緒に頑張っていこうぜ』と。そんな感じの内容でした」
お互いにプロである以上は余計な言葉は要らない。これだけで十分だった。
翌2016シーズン。アルビレックス新潟の監督に就任した吉田は、リーグ戦で湘南と1勝1敗の星を残している。
「永遠の先輩として、これからもずっと…」

今季から京都サンガF.C.のヘッドコーチに就任した吉田達磨【写真:Getty Images】
「曺さんのチームと対戦するときは本当に休ませてくれないし、めちゃくちゃ熱を感じさせる。こちらも熱を出さないとやられてしまうなかで、今日はウチの選手たちがテンションのぶつけ合いを制してくれた」
監督として対湘南3戦目で初勝利をあげた2016シーズンのファーストステージ開幕戦後。吉田は個人的に万感の思いを募らせながら、同時に未来へ向けてこんな言葉を紡ぐのも忘れなかった。
「曺さんは昔からまったく変わらない。永遠の先輩として、これからもずっとリスペクトしていきます」
湘南を率いて2018シーズンのJリーグYBCルヴァンカップを制した曺は、翌2019シーズン途中に退任。2021シーズンから生まれ故郷のクラブで、当時J2の京都の監督に就任。1年目で12シーズンぶりにJ1へ復帰させると、5年目の昨シーズンは優勝争いを演じた末にクラブ史上で最高位の3位へと導いた。
新潟、そしてヴァンフォーレ甲府の監督も契約途中で解任された吉田は、2度目の甲府監督を務めた2022シーズンの天皇杯をJ2クラブとして制覇。直後にリーグ戦での不振を理由に退任する憂き目を味わい、J2の徳島ヴォルティス監督を2024年3月に解任された後は韓国・大田ハナシチズンでコーチを務めた。
お互いが信じる道を歩んでいけば、必ずまたあいまみえる。言葉にはせずとも熱いエールを送り合ってきた2人は昨年末、監督とヘッドコーチとして、33年ぶりに同じチームで戦う関係になると発表された。
選手育成面で高い評価を受けてきた吉田は、京都を通じてこんな抱負を発表している。
「躍進と成長を続けるこのクラブに加われることを、大変光栄に思います。曺貴裁監督を支えることはもちろん、スタッフとも一丸となり、チームの勝利と選手の成長という両輪を回し続けられるよう全力を尽くします」
6年目の指揮を執る曺監督のもと、昨シーズン以上の景色を見ようと望む今シーズン。京都の新しい武器のひとつに、1993年のJリーグ元年からサッカー観を共有してきた吉田ヘッドコーチとの固い絆がある。
(取材・文:藤江直人)
【著者プロフィール:藤江直人】
ふじえ・なおと/1964年、東京都渋谷区生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後の1989年に産経新聞社に入社。サンケイスポーツでJリーグ発足前後のサッカー、バルセロナ及びアトランタ両夏季五輪特派員、米ニューヨーク駐在員、角川書店と共同編集で出版されたスポーツ雑誌「Sports Yeah!」編集部勤務などを経て07年からフリーに転身。サッカーを中心に幅広くスポーツの取材を行っている。サッカーのワールドカップは22年のカタール大会を含めて4大会を取材した。
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【了】