
奈良クラブの大黒将志監督【写真:藤江直人】
JFL、そしてJ1での学びを経て、大黒将志氏は奈良クラブの指揮官として新たな挑戦に踏み出した。勝つために、何を大切にするのか。ストライカーとしてゴールを量産してきた男は、監督元年のシーズンで自身の哲学を示そうとしている。(取材・文:藤江直人)[1/2ページ]
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「S級ライセンスを取得する段階から…」
ガンバ大阪時代の大黒将志氏【写真:Getty Images】
はやる気持ちを抑えながら、大黒将志氏はJクラブで監督を務めるために自己研鑽を積み重ねてきた。
日本サッカー協会(JFA)が発行する最高位の指導者資格、S級ライセンス(現JFA Proライセンス)の取得をほぼ確実な状況としていた2023年の年末。大黒氏は未来の自分から逆算しながら行動を起こした。
現役を引退した2021年1月からアカデミーストライカーコーチを務めていた古巣ガンバ大阪を退団。日本フットボールリーグ(JFL)のFCティアモ枚方のヘッドコーチに就任した理由を大黒氏はこう語る。
「S級ライセンスを取得する段階から、僕自身は監督をやりたかった。ただ、いきなり監督のオファーがあるわけではない。そのなかで枚方から、僕にほぼ(監督を)やらせてくれるオファーが届いたので」
ガンバの同期生でもある枚方の二川孝広前監督、同じくガンバの先輩である枚方の新井場徹オーナー、何よりも枚方に関わるすべての人々へ感謝の思いを捧げながら大黒氏が続ける。
「すべて自分でやりながら…」

奈良クラブの大黒将志監督【写真:藤江直人】
「年間スケジュールや週間スケジュール、選手のコンディション管理や1週間のサイクルといったものもすべて自分でやりながら、年間のリーグ戦をどのように戦っていくのか、という経験を積めた1年間でした」
2024シーズンの枚方はクラブ史上で最高位となるJFLの3位へ躍進。J3へ参入した栃木シティと高知ユナイテッドSCには届かなかったものの、2023シーズンの11位から大きく順位をあげている。
大きな手応えをつかんだ大黒氏は、昨シーズンには川崎フロンターレのコーチに就任。トップカテゴリーのJ1でのトップレベルとなる川崎で、長谷部茂利監督のマネジメントやチーム運営を間近で学んだ。
「川崎でも攻撃的な部分に関しては、長谷部監督が僕に任せてくれた部分があったので」
大黒氏がこんな言葉を介して感謝した昨シーズンの川崎は、総得点でリーグ1位となる「67」を叩き出している。すべてが新鮮に感じられた日々で、大黒氏は自身の指導方法に自信を抱いたと明かす。
「まったく違う現象が起こるのかなと思っていたら…」

奈良クラブの大黒将志監督【写真:藤江直人】
「やはり同じサッカーなので、多少のレベルの違いはあっても起きる現象は似ている、とすごく感じました。これまでとはまったく違う現象が起こるのかなと思っていたら、実際にはそうではなかった。自分にとってすごく新しい発見だったというか、(指導者として)やっていけるんじゃないか、という自信になりました」
実は枚方時代も総得点は2023シーズンの「32」から、約50%増の「49」へ大きく伸びていた。
そして、機は熟したと確信した大黒氏のもとに届いたのが奈良クラブからの監督就任オファーだった。
昨シーズンの奈良はトレーニング中に不適切な指導があったとして、6月に中田一三監督との契約を解除。急きょ就任した小田切道治監督(現・レノファ山口FC監督)も9位でシーズンを終えた後に退団した。
どのような人物に新シーズンの指揮を託すのか。奈良の濱田満社長はこんなビジョンを描いていた。
「偶然という言葉を批判するわけじゃないですけど、放り込んでどっちに転ぶか、その結果として勝った、負けではなくて、しっかりとロジックを組む奈良クラブのサッカーだけは絶対に変えたくなかった」
特に重視したのが攻撃面での課題克服だった。昨シーズンの奈良の総得点はリーグ8位の「50」だった。前シーズンの「43」からは改善されたが、J2昇格を達成するためには物足りない数字だった。
そして、リストアップされた複数の候補から、大黒氏に一本化された背景には一本の電話があった。