
ベガルタ仙台の岩渕弘人【写真:Getty Images】
明治安田J2・J3百年構想リーグEAST-A第4節が28日に行われ、ベガルタ仙台はホームでヴァンラーレ八戸をPK戦の末に下した。憧れ続けたベガルタ仙台のユニフォームに袖を通し、ついにユアテックスタジアム仙台のピッチへ立った岩渕弘人。歓声に包まれたホーム開幕戦で味わった震えるような感情は、これまで歩んできたキャリアと幾度もの決断を鮮やかによみがえらせていた。(取材・文:藤江直人)[2/2ページ]
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「残りのサッカー人生を賭けるくらいの気持ちで…」

ベガルタ仙台の岩渕弘人【写真:Getty Images】
「年齢的にももうあれなので、残りのサッカー人生を賭けるくらいの気持ちで来ました。(ユアテックスタジアム仙台の)あの大声援が味方になるのか、敵になるのかは、やはりものすごく大きいので」
9月には29歳になる。岩渕が口にした「年齢的にももうあれ」とは、つまり「もう若くない」という意味だったのだろう。このチャンスを逃せば、仙台と巡り会えるかどうかがわからなかったからだ。
そして再びJ2でのプレーを決めた岩渕は、背中を介して新天地での決意を発信している。
いわきの1年目から岡山と背負い続けてきた「19番」を、仙台では「27番」に変えた。2024シーズンからプレーするマテウス・モラエスが、すでに「19番」をつけていた以外に理由がもうひとつあった。
「岡山で一番仲がよかった選手が『27番』なので。それだけじゃなくて、球際の激しさを含めてひとつひとつのプレーに強い気持ちがこもっている選手だし、自分も負けないように、という思いを込めました」
ハードワークと豊富な運動量、そして常にフォア・ザ・チームの献身性で岡山を縁の下で支え、ファン・サポーターだけでなく岩渕をも魅了したひとつ年下の木村太哉の泥臭いプレーを仙台で体現している。
「それはずっとやってきたプレー」
PK戦の末に勝利を手にしたベガルタ仙台【写真:Getty Images】
「点を取るプレー以外で大事にしている自分のよさ、守備でも頑張る部分はここでも出さないといけないと思っているし、自分のなかでそれはずっとやってきたプレーでもある。守備に対して力を使い過ぎる部分はある意味でしょうがないと思っていますけど、もちろん結果も求められる立場でもあるので」
八戸戦後にこう語った岩渕は、放ったシュートが38分の1本のまま荒木駿太と交代していた。
右サイドを攻めあがった髙田椋汰が放ったグラウンダーのクロスに、全力で走り込んでいった先のニアで反応。右足を合わせた岩渕の一撃は、平松航の捨て身のブロックに弾き返された。
八戸は昨シーズンのJ3リーグで最少となる23失点の堅守を引っさげ、J2へ初めて昇格してきた。百年構想リーグでも堅守を生み出したハイプレスとカウンターを、さらに徹底して繰り出している。
守備にも注力し続けた代償からか。足が攣りかけた岩渕は自らベンチへサインを送り、交代を申し出た。そして鳥肌が立っている自分に気がついたベンチで、さらに心を震わせる光景を目の当たりにした。
両チームともに無得点で前後半を終えて突入したPK戦。5人目まで蹴り終えて4-4となった状況で、ペナルティスポットの芝生の状態が劣悪だと主審が判断し、異例とも言えるエンドの切り替えが行われた。
ゴール裏のスタンドは、一転してベガルタゴールド一色で埋め尽くされた。そして大音量のブーイングを介して、先蹴りとなる八戸の6人目のキッカー、澤田雄大へ大きなプレッシャーをかける。
すると、澤田のキックを守護神・林彰洋が完璧に阻止。その後、仙台の6人目、荒木がゴール左隅へしっかりと決めて、無傷の開幕4連勝を決めるまでの流れに、岩渕も完全に引き込まれていた。
「やはりそういうスタジアムなんだ、と」
試合後にサポーターへ挨拶をするベガルタ仙台の選手たち【写真:Getty Images】
「キーパーのアキさん(林)が止めたシーンもファン・サポーターの力だと思いましたし、そこに自分もいちファンとして乗っていました。エンドが変わったなかで、やはりそういうスタジアムなんだ、と」
次の瞬間、笑顔を弾けさせた岩渕のなかで、移籍してよかった、という思いが頭をもたげてきた。
「昔の思い出もちょっと蘇ってきましたし、今日という日は絶対に忘れないと思います」
センチメンタルな思いを抱きながらも、移籍を正解にするための目標を新たにしている。それはJ2・J3百年構想リーグ後の8月に開幕する、2026/27シーズンで決めるJ1昇格にほかならない。
「それは自分もそうですし、チームもそうですし、ファン・サポーターのみなさんもそうだと思うので。その意味でも今日みたいに点が入らない難しい試合で勝たせられる選手は、昇格するチームには絶対に必要だし、チームで一番多く点を取って勝たせられる選手になりたい。そのために自分は来たと思っています」
仙台の選手としてユアテックスタジアム仙台のピッチに立つ。
小学生時代から抱いてきた夢をかなえたアニバーサリーを通過点に変えながら、岩渕は未来へ向けてすでに全力で突っ走っている。
(取材・文:藤江直人)
【著者プロフィール:藤江直人】
ふじえ・なおと/1964年、東京都渋谷区生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後の1989年に産経新聞社に入社。サンケイスポーツでJリーグ発足前後のサッカー、バルセロナ及びアトランタ両夏季五輪特派員、米ニューヨーク駐在員、角川書店と共同編集で出版されたスポーツ雑誌「Sports Yeah!」編集部勤務などを経て07年からフリーに転身。サッカーを中心に幅広くスポーツの取材を行っている。サッカーのワールドカップは22年のカタール大会を含めて4大会を取材した。
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