ファジアーノ岡山の立田悠悟【写真:Getty Images】
ファジアーノ岡山は3月8日、明治安田J1百年構想リーグ地域リーグラウンド第5節で京都サンガF.C.と対戦し、1-0で勝利している。今季初めての90分での勝利となったが、この勝利にはそれ以上の意味合いがあった。前回対戦時はアウェイで5-0の大敗。加入2年目の立田悠悟はそのとき負傷で欠場していただけに、リベンジに燃えていた。(取材・文:難波拓未)[1/2ページ]
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ファジアーノ岡山にとってショッキングだった前回の京都サンガF.C.戦を経て
清水エスパルス時代の立田悠悟【写真:Getty Images】
大きな目標を掲げ、それを公言する。自分にプレッシャーを与え、それを乗り越えていく。基準の高さを、攻守両面で体現した。
ファジアーノ岡山にとって、3月8日に行われた明治安田J1百年構想リーグの第5節には因縁があった。前回対戦時にアウェイで5-0と大敗した京都サンガF.C.が相手だったからである。
当時はJ1で初の3連勝を達成し、勢いよく敵地に乗り込んだ。しかし、FWラファエル・エリアスをはじめとする京都の攻撃陣を止めることができず、前半に3失点、後半に2失点。完敗と言える、悔しい結果に終わってしまった。
堅守を売りにしてきた岡山が大量失点を許してしまう。前半の立ち上がりにMF江坂任のゴールが取り消されてから、なかなかゴールに迫ることができない。力の差を感じさせられた試合は、岡山に関わる人々に大きな衝撃を与え、ショッキングな記憶として脳にこびりついた。
失意の敗戦から190日後。木山隆之監督も試合前に「リベンジ」という言葉を口にした今節のピッチには、在籍2年目のDF立田悠悟がいた。
清水エスパルスのユースからトップチームに昇格し、その後の9年間すべてをJ1で過ごしており、チームの守備陣の中で最もJ1経験が豊富な選手だ。ただし、前回対戦は負傷離脱期間と重なり、チームが敗れるところを中継で見ることしかできなかった。
「あの試合は個人のところの差をすごく感じた。『自分がいたら、こういうふうにできた』とか、すごく思った試合でした」
だからこそ、今節に向けて闘志を燃やしていた。ただし、落ち着いた口調で、淡々と。肩肘を張るのではなく、脱力しているかのようにリラックスしていた。なぜなら、日常のレベルを高めようとしているから。
「今年は『個人として負けない、圧倒的に勝つということ』をやりたいと意識している。その中で、京都は相手にとって不足はない。正直、そこに尽きるかなと思う。特に次の試合は、個人のところで負けないことが重要だと思います」
立田悠悟は京都の攻撃を全く許さなかった
ファジアーノ岡山加入2年目の立田悠悟【写真:Getty Images】
自らの手のひらで両頬を叩き、JFE晴れの国スタジアムのピッチに立つと、守備では地上戦も空中戦も負けなし。前節に続いて3バックの右を担当し、堅牢な守備対応を披露した。
26分、これまで岡山の左サイドから攻めることの多かった京都が、岡山の右サイドからゴール前への進入を試みてきた。
縦パスを受けたFWマルコ・トゥーリオがワンタッチで落とし、MF尹星俊がダイレクトで背後にスルーパス。トゥーリオをマークしていた立田は、前に釣り出されていた。
しかし、鋭い反転からの素早い戻りでインターセプト。奪った直後、即時奪回を狙っていたMF佐藤響に寄せられたが、強度の高いスライディングで球際を制す。完全にマイボールにし、1人で迎撃してみせた。
前半終了間際に京都のFKを跳ね返し、こぼれ球を再び蹴り込んできたクロスもヘディングでクリアして、最初の45分を締め括った。
64分にはセンターサークル付近で相手のロングボールを力強く弾き、それをそのままMF木村太哉のパスにして攻撃に繋げた。
立田が守る右サイドからは、相手の攻撃を全く許さない。「右がダメなら左から」という京都の攻撃は、DF工藤孝太が跳ね返す。3バックの中央でDF田上大地が、緻密なラインコントロールと出足の鋭さで縦パスを潰していく。得点力のある相手にゴールどころか、決定機も与えなかった。
強固な壁を築き上げた守備について、指揮官は「いつも通り自分たちのプレーをしっかりとした中で、集中力が高かった」とコメント。その集中力を途切らせなかったのが、背番号48の声かけだった。
今節は強度の高さを持ち味とするチーム同士の対戦だったため、ファウルが発生したり、選手が痛めたりしてプレーが中断されることが少なくなかった。
また、ジャッジに対する主張をレフェリーにぶつけるシーンもあり、流れが止まる場面も多々あった。スタンドからのチャントも止む中、常に声をかけていたのが立田だった。
両手を叩き、大きな声を出し、味方に注意を促す。3バックで連係を再確認し、ウイングバックやボランチとも意思疎通を図る。その振る舞いは、これまでの失点の傾向を踏まえたもので、「プレーが切れたときにどれだけ集中させられるか」を意識するものだった。
“声かけ”の重要性と必要性は、木山監督も感じている。
守備だけでなく、攻撃でも的確なプレーをみせた立田悠悟
決勝点を挙げたファジアーノ岡山の松本昌也【写真:Getty Images】
「開幕から相手にたくさんチャンスを与えているわけじゃないけれど、必ず一瞬、集中力が欠ける瞬間に相手に質を出されて、少ないチャンスで(得点を)入れられることが続いていた。そこは我々としてはなんとかしたいところ。
このリーグを勝ち抜いていくには、集中力を持って強く戦った中で今日みたいなシビアな試合をものにしていくことが大事だと思う。そのためには守備的にプレーするよりも高い集中力が欠かせない要素。
それを出すために声をかけたり、チームとして大丈夫だろうと思ったときでも正しくポジションを取ったり。そういうところをやり続けることを1週間2週間ずっとしているので、今日はよくやれたと思います」
声で守備の土台を築いていた立田は攻撃でも的確だった。中央にクサビのパスを通し、前進を助ける。相手の逆を突いて持ち運び、プレスを回避する。バイタルエリアの味方にグラウンダーのパスを打ち込み、攻撃のスイッチを入れる。
チームが今年から取り組むボールを握って、相手陣内に入り、ゴールに迫るプレーにも寄与していくと、83分だった。
岡山が左サイドで起点を作り、FWウェリック・ポポから右ウイングバックのMF松本昌也にボールが渡る瞬間、立田が内側から奥のスペースに全速力で走り込んだ。
試合終盤に50m以上を駆け上がって抜け出すと、191cmの身体を倒しながら、クロスを上げる。このボールはゴール前を通過したが、逆サイドにいたMF白井康介に通り、白井のクロスから松本の決勝点が生まれた。
一瞬の油断も許さない。神経を使って守り続けてきた試合終盤のインナーラップは、「チャンスのタイミングを見計らえるようになってきている」からこそ繰り出せたプレーだった。
「質は低いので、そこの質を上げたい」という課題は残ったが、思い切った攻撃参加で相手の意表を突き、右サイドから左サイドへの大きなボールが届いたことで、守備網を横に大きく揺さぶることができた。
京都を相手に無失点で、試合後に江坂と「自分たちの理想に近づいているようなゲームができた」と話したほどの内容で、今季初の勝点3を獲得した。
タイムアップ直後には腕を振り回すようなガッツポーズを見せ、笑顔でチームメイトと喜びを分かち合っていたが、ミックスゾーンでの表情は晴々としたものではなかった。