ファジアーノ岡山のウェリック・ポポ【写真:Getty Images】
ファジアーノ岡山は3月14日、明治安田J1百年構想リーグ地域リーグラウンド第6節で清水エスパルスと対戦し、1-1からのPK戦の末に敗れた。負けはしたが、来日2年目で待望の初ゴールを挙げたのがウェリック・ポポだ。加入からおよそ9か月、ここまでの道のりは決して平坦なものではなかった。(取材・文:難波拓未)[1/2ページ]
「本当にほっとしています」ウェリック・ポポは歓喜の中心にいた

来日2年目で待望の初ゴールを挙げたファジアーノ岡山のウェリック・ポポ【写真:Getty Images】
待望の瞬間に、全員が喜びを爆発させた。そこには愛が溢れていた。
(PK戦での勝利を含め)3連勝を目指してアウェイに乗り込んだ一戦は、FWオ・セフンへのロングボールを中心に清水エスパルスの圧力を受けてしまう。
自陣で耐える時間が長く、特に前半は木山隆之監督が「今季の中で一番良くない前半だった」と表現するほど。DF田上大地をはじめ粘り強く守っていたが、58分に警戒していたセフンに先制点を許す。後手に回るような内容で、ビハインドも負うことになってしまった。
しかし、80分だった。ファジアーノ岡山に大きな歓喜が訪れる。その中心にいたのは、FWウェリック・ポポだ。
途中出場のFW一美和成が右サイドで相手と身体をぶつけながらボールをキープし、スローインを獲得。
DF立田悠悟が投げ入れたボールをMF松本昌也が受けると、背負いながらのヒールキックでDF吉田豊の股を抜くパスを出す。これに反応した一美は右サイドの最深部から中の状況を確認し、右足でクロスを蹴り込む。
縦回転のスピードボールがゴール前へ飛んでいく。ボールはニアに走り込んだFW木村太哉の頭上ギリギリを通過してファーサイドへ。一瞬の出来事に相手守備が硬直する中、最後まで足を動かしていたポポが、伸ばした右足で押し込んだ。
「正直に言うと、一美選手がクロスを上げてから(のシュートは)私がボールを蹴ったというよりボールが私の足に当たった感覚。たぶんボールが来る前に(木村)太哉選手も少し触ったかもしれない。でも、ドンピシャなボールでしたし、押し込むことができました」
ゴールネットが揺れた瞬間、ポポは両手を頭の上で振るように突き上げた。近寄ってきた木村と激しくぶつかりつつも、2階席にいるアウェイサポーターの方へ走る。
その間、ガッツポーズは止まらない。飛び跳ねるようにコーナーフラッグへ向かっていくと、チームメイトがベンチやウォーミングアップエリアから飛び出してきた。
ポポはその場に座り込み、頭や肩をなでられたり叩かれたりして祝福を受けながら、両手で顔を覆った。待ちに待った初ゴールを噛み締めるように喜び、最後に同じブラジル国籍の先輩であるFWルカオと満面の笑みで抱擁をかわした。
「やっと日本で初ゴールが決まりました。うれしさもありますが、本当にほっとしています」
試合終了間際での劇的な決勝ゴールではない。毎試合で勝利を目指すチームにとっては逆転に向けて勇気が湧いてくるゴールではあったが、あくまでも同点ゴール。「勝負はここからだ」と気を引き締める瞬間である。
即戦力として期待されるも慣れない環境で結果が出せない日々
ファジアーノ岡山のウェリック・ポポ【写真:Getty Images】
いつもならすぐにゴールに収まったボールを拾い上げ、センターサークルまで持ち帰って一刻も早くプレーの再開を促していただろう。
しかし、岡山にとって、ポポにとって、単なる1点ではなかった。190cmのFWが加入から約9カ月、苦しみもがきながら掴んだ公式戦での初ゴールだったのだ。
2025年6月にブラジルのレッドブル・ブラガンチーノから期限付き移籍でやってきた。J1元年でのシーズン途中の補強。即戦力かつ得点源として期待されていた。
木山監督もポテンシャルを感じ、来日して12日後の試合から途中出場で起用している。その後も後半終盤での投入を中心に、昨季は12試合で223分のプレータイムを得た。
だが、その才能を全くと言っていいほど発揮できずにシーズンが終わった。ストライカーらしくゴールに襲いかかるシーンを作れず、ボールタッチも乱れてしまい、不本意なロストが少なくなかった。
味方とプレーの意図が合わないこともしばしば。不必要なパスミスでカウンターのきっかけを作るシーンもあった。岡山のFWとして出場するなら欠かせない守備での献身性を出すことも難しい。
初めての日本という環境、活躍を求められるチームへの適応に手こずっていることは明らかだった。
「もちろんJ1のレベルでプレーすることも難しいけど、監督に求められることやチームの戦術を把握することが最初はできなくて、それにとても苦しみました」
一定の出場機会が与えられる中で、なかなか目に見える成果が出ない。本人にとっても、見守る人たちにとっても、歯がゆい時間が続いた。
だが、ポポは岡山で活躍することをあきらめなかった。
「2026年の6月に岡山との契約を更新したい。そのために(百年構想リーグを戦う)この半年はたくさんのゴールを決めたいし、日々の練習から全てを出していきたい」
自分に落ち込むのではなく、強い覚悟を持って2026年を迎えることができたのは、ルカオという兄貴分が手厚くサポートし続けてくれたから。
日本への適応の難しさを知っているルカオだからこそ…弟分・ポポへの思い
ファジアーノ岡山のウェリック・ポポ(上段左から4番目)とルカオ(上段左から3番目)【写真:Getty Images】
ポポとルカオは、ピッチ内で常に行動を共にしている。グラウンドでは全体練習前後のジョギングを隣で行い、コーチングスタッフの指示も一緒に聞く。クラブハウスでも頻繁に会話を交わす。食事もお風呂も同じタイミング。
そこから2人の綿密なコミュニケーションは、次第にDF阿部海大や木村をはじめ日本人選手に広がっていく。
ロッカールームで話をしていると、“耳コピ”したポルトガル語で話しかけてくれる選手も増えていった。先日、ブラジルに短期留学したFW末宗寛士郎とDF千田遼のポルトガル語の練習にも付き合った。
ポポは公式戦の翌日に行われるトレーニングマッチに出場することが多く、そこでは少なくないゴールを決めてきた。そのときに主力選手は、リカバリーを終えてからピッチ脇に座り、前半を見ることが日常の風景となっている。
ハーフタイムのタイミングでほとんどの選手がクラブハウスに戻る中、ルカオは1人だけ残って、ポポのプレーを見守り続ける。ポポが交代で引き上げてくると、ルカオは立ち上がり、ハグで迎えて、愛澤フェルナンド通訳と3人でクラブハウスに帰っていくのだ。
いまやJ1にその名を轟かせている来日8年目のルカオだが、日本への適応の難しさを知っている選手でもある。岡山加入直後はキレのある動きを出せず、プレッシングで穴を作ってしまうこともあり、思うように力を発揮できない時期を過ごした。
その経験を活かし、指揮官がFWに求めるプレーや役割の体現についてアドバイスしてきた。そして、弟分に期待し続けてきた。
「ポポはブラジルでのU-20の大会で得点王だった。当時は(バルセロナにも移籍した)ヴィトール・ロケがいたにもかかわらず。そういうポポを岡山で見たいと思っていますし、それができれば絶対にチームに貢献できると思います」(ルカオ)
ルカオの思いも汲み取ったポポは、食事制限や睡眠改善に着手し、コンディションの向上に努めた。今季は加入時と違って、プレシーズンからプレーできる。
苦しんだ昨季の経験も糧にしている。