
カターレ富山でプレーする中島裕希【写真:Getty Images】
長年過ごしたFC町田ゼルビアを離れ、今季からカターレ富山に移籍した大ベテランの中島裕希。なぜ彼は、故郷のクラブに身を置くことを決めたのか。実は、カターレ富山に心を動かされた瞬間があった。そして今、彼は地元でプレーする喜びと、昔は感じなかったという魅力に気づき始めている。(取材・文:藤江直人)[2/2ページ]
——————————
「ちょっと心を動かされたというか」

逆転でJ2残留を決めたカターレ富山【写真:Getty Images】
標的にすえていたのは、勝ち点2ポイント差で17位につけているロアッソ熊本。しかし、ホームでヴァンフォーレ甲府と対峙した一戦を、甲府はスコアレスドローで終えようとしていた。
このまま最終節を終えても、勝ち点「37」で熊本と並ぶものの、得失点差で熊本の「-16」にわずか1ポイント及ばない。2点差で勝利して得失点差で並んだとしても、総得点で熊本に遠く及ばない。
しかし、昨シーズンで最多の9191人のファン・サポーターが駆けつけた県総のスタンドを含めて、富山にかかわる誰もが奇跡を信じて疑わなかった。
そして89分に椎名伸志が3点目を決める。
迎えたアディショナルタイムの93分。ルーキーの亀田歩夢(流通経済大学付属柏高校卒)が決めたプロ初ゴールで得失点差を「-15」とした直後に、熊本が引き分けたという一報が飛び込んできた。
最終節を見ていた中島は魂を揺さぶられ、生まれ故郷のチームでプレーしたいという思いに駆られた。
「何て言うんですかね、ちょっと心を動かされたというか、富山のために何か自分もできないかと。生まれ育った町でもありますし、その富山の町にピッチの内外で恩返しできる機会というのをもらえたら、と」
当時の町田は名古屋グランパスとのホーム最終戦を翌日に控えていた。
それでも町田の後輩・布施谷翔が、育成型期限付き移籍で2024シーズンから富山に加入していた縁もあって視聴していたのだろう。
何よりも中島自身が、富山というチームの存在を意識していた。
横浜F・マリノスと清水エスパルスで社長を、湘南ベルマーレでは専務を務め、2021年4月から富山の社長を務めている左伴繁雄氏が言う。
「40歳のオッサンがこれだけ頑張っているのに、何か感じるものはないのか」

指示を出す安達亮監督【写真:Getty Images】
「以前から『最後は富山でプレーしたらどうか』とは言っていたんですけどね」
しかし出場機会が激減しても、選手として、そして人間として町田も中島を高く評価していた。
たとえば中島が9年ぶりとなるJ1でのゴールを決めた2024シーズン。黒田監督はこんな檄をチームへ飛ばした。
「40歳のオッサンがこれだけ頑張っているのに、何か感じるものはないのか」
しかし、昨シーズンのオフは中島の熱意が町田側を説き伏せたのだろう。
交渉事とあって詳細こそ明かさなかったものの、昨年12月21日に両チームから発表された完全移籍を中島はこう振り返った。
「タイミング的なものも多分あっただろうし、契約面でもいろいろとあっただろうし、ちょっと時間がかかったのかな、と。でも僕自身としては(決定は)意外と早かったと思っています」
そしてチームに迎え入れてからの日々を介して、左伴社長は「町田さんが手放そうとしなかったのが、いまではよくわかります。ピッチの内外でチームに本当にいい影響を与えている」と中島を称賛する。
「安達亮監督も『41歳の選手とは思えない』と驚いている。練習中のリーダーであると同時に、ピッチを離れた選手以外のところでも素晴らしい。アスリートであり、ジェントルマンという感じですよ」
百年構想リーグの登録選手で、40歳以上の選手は現時点で9人。J1はゼロで、J2では5人を数える。
そのうち3人を占めるフィールドプレーヤーで、中島の出場4試合、プレータイム62分はともに最長だ。
40歳を過ぎて富山の魅力を改めて感じたい

試合に向かう中島裕希【写真:Getty Images】
「本当にやれるところまでやれればと思っています。富山のために」
百年構想リーグ終了後の6月に42歳になる中島は、8月に開幕する新シーズンまで契約を結んでいる。
現時点でJ2歴代2位の出場531試合、104ゴールをあげている先に待つ新たなチャレンジへ。
完全燃焼を誓う富山での日々で受けている新たな刺激を、中島は笑顔を浮かべながらこう語っている。
「僕自身は高校を卒業するまでしか(富山に)いませんでしたし、その高校時代もサッカーばかりをやっていたので、食事が美味しいお店を含めてどこにも行けなかった。なので、まあこれからですね。
ただ、年を取ると感じ方というものもまた変わってきますよね。たとえば立山連峰に代表される景色を見るとものすごく綺麗だと思うんですけど、(高校生の)当時は何も感じなかったんですけどね」
日本有数の美食の町として知られる富山のよさをあらためて実感しているのだろう。
中島は「これからはホタルイカですね」と今月1日に漁が解禁され、富山湾の神秘として、いままさに旬を迎えているグルメの代表格をあげた。
次なる戦いへ気持ちを切り替えているベテランの表情は充実感に満ちあふれていた。
(取材・文:藤江直人)
【著者プロフィール:藤江直人】
ふじえ・なおと/1964年、東京都渋谷区生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後の1989年に産経新聞社に入社。サンケイスポーツでJリーグ発足前後のサッカー、バルセロナ及びアトランタ両夏季五輪特派員、米ニューヨーク駐在員、角川書店と共同編集で出版されたスポーツ雑誌「Sports Yeah!」編集部勤務などを経て07年からフリーに転身。サッカーを中心に幅広くスポーツの取材を行っている。サッカーのワールドカップは22年のカタール大会を含めて4大会を取材した。
【関連記事】
とにかく遠い…。Jリーグ、最寄り駅から離れすぎなスタジアムランキング1~5位
明治安田百年構想リーグ ユニフォーム記事一覧
Jリーグ移籍情報2026 全60クラブ 最新補強一覧