清水エスパルスは3月22日、明治安田J1百年構想リーグ地域リーグラウンド第8節でサンフレッチェ広島と対戦し、3-1で勝利した。中でも大きなインパクトを残したのが、FW北川航也だ。今季から右ウイングという新たな役割を与えられた北川は、今季の始動から積み上げてきたものをピッチで存分に表現している。(取材・文:榊原拓海)[1/2ページ]
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攻守両面で輝きを放つ北川航也
サンフレッチェ広島戦の北川航也は、圧巻の一言だった。「ここぞ」のタイミングでのプレスバック、チーム戦術として求められる範疇の中での上下動など、これまで見せてきた献身的な姿はそのままに、この試合ではオン・ザ・ボールのキレも今季随一と呼べる出来。攻守両面で、これ以上ない輝きを放っていた。
特に度肝を抜かれたのは前半18分のプレー。MF宇野禅斗が中盤でフィルター役となり、ボールを奪い取ると、左サイドにポジションを取ったFWカピシャーバが一気に逆サイドへ展開。右サイドでボールを受けた北川は、見事なファーストタッチから、縦突破を匂わせる切り返しで広島のMF志知孝明を置き去りに。カバーに来たDF塩谷司も寄せ付けず、DFキム・ジュソンの股下を通すシュートを放った。
結果的にはGK大迫敬介の好セーブに阻まれたものの、「さすが日本代表のGKですね」と振り返りつつ、「枠に行っていたので、入って欲しかったなとは思いますが、練習通りではあったし、自分にできる範囲のプレーでした。次はしっかり、ゴールに結びつけたい」と北川。特別な一撃ではなく、“再現性のあるプレー”として捉えている点が印象的だった。
もう1つ、忘れてはならないのが、28分のシーン。MF川辺駿が広島陣内からボールを持ち運び、カウンターに出ようとしたところで、素早い切り替えにより川辺からボールを奪取した。
何気ないプレーだが、北川に言わせれば「あそこはしっかりと芽を摘まなければならないところ」。「相手の攻撃陣に個々で力がある選手がいるからこそ、誰一人としてサボっちゃいけない。11人全員が自分の役割をやった上で、結果がついてくるので、あれはマストでやらなきゃいけないこと」という心情があるからこそ、決して守備面でも力を抜くことなく、見事なボール奪取で広島の攻撃を遮断した。
「もう既に体が動いている」
これら2つの具体例だけでなく、攻守に効果的、かつキレのある動きを披露した広島戦の北川は、“なんでもできる状態”に見えた。だが、本人曰く、感覚は若干異なるのだという。
北川は18分のシーンを例に挙げながら、「右足で縦に突破してからのクロスを見せる。それを警戒されたら、カットインから左足でのシュートも活きてくる。なんでもできるというよりは、ゴールに向かっていくプレーを続けることが、相手にとって脅威になるのかなというのは、試合を追うごとに感じているところです」と語る。
川辺の突破を防いだシーンについても、本人は「その場ではあまり考えていないんですよね」と本音を明かしながら、瞬時の判断で繰り出したプレーだと説明した。
「『ヤバい…』と思った時には、もう既に体が動いている。逆に、『行ける』と思ったら、すぐに前に出て行くことができている。これらは感覚的な部分にはなりますが、チームとして守らなければならないところでしっかり戻って、そこから前に出ていくことは普段から言われています。それができなければ試合には出られませんし、自分はそれを体現しているだけだと思います」
つまり、事前にチームの中で求められる役割を整理した上で、一連の動きをオートマチックに披露するだけの状態とも言い換えられる。本人は「今は体が動いている状態なのは間違いないです」とも口にするが、自身のコンディションの良さをパフォーマンスに直結できている背景には、右ウイング(WG)という新境地に挑戦したキャンプから、彼自身が理解を深めてきた日々があることを忘れてはならない。
新たな役割への印象「大きくサッカーが変わって…」
時は鹿児島キャンプに遡る。北川は昨季までは1トップ(CF)のポジションに入ることが多かったが、吉田新監督は右WGのポジションに配置した。もっとも、このチームの右WGに求められるタスクは、幅を取ってサイドから攻撃を彩る従来のWG像とは異なる。CFの近くでプレーしてセカンドボールを拾うことや、逆サイドからのボールに対して、ゴールへ直結する動きなどが求められ、イメージは“ウイングストライカー”に近い。
そうした役割を与えられた北川は当時、「自分のストロングを活かせると思って、ここまでやってきています」と前向きな手応えを口にしていた。秋葉忠宏前監督の下、1トップとして奮闘した経験も、今に繋がっているのだという。
「今季は大きくサッカーが変わって、手数をかけずに相手陣地に入っていくサッカーを考えると、(自分の適性は)1トップではないかなと思う部分はあります。ただ、この数年間1トップをやってきて、意味がなかったとはまったく思っていません。2年間でプレーの幅が広がった実感はあるので、そこを今後に活かしていければ」
より細やかな戦術ベースを落とし込んでいく過程の中で、チームが自陣深くに押し込まれた際、北川には空いたスペースを埋めるプレスバックや、そこからカウンターに転じた際に前線へ駆け上がる動きも求められた。練習後に「正直めちゃくちゃキツいです」といった言葉を口にしたこともあったが、その言葉にネガティブな雰囲気は全く感じられなかった。むしろ、役割を整理しながら、新たな挑戦を楽しんでいるように映った。


