
ジェフユナイテッド千葉でプレーする猪狩祐真【写真:Getty Images】
キャリアに影を落とした膝の負傷から1年半――。ジェフユナイテッド千葉でプレーする猪狩祐真は、いかにして挫折を乗り越えたのか。プロ契約後の1年をピッチの外で過ごした男は、今季からようやく日の目を見ている。川崎フロンターレのDNAを継承する彼の身に、一体何が起きていたのか。(取材・文:菊地正典)[2/2ページ]
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「やれるって思っていたんですよね」

ジェフユナイテッド千葉のサポーター【写真:Getty Images】
「それからはジェフでバリバリやるつもりで、そのシーズン中にデビューするつもりでした」
しかし、復帰してわずか2週間で今後は足首を負傷。このケガが予想外に長引き、復帰までに3カ月ほどを要した。
それからも違和感は拭いきれず、90分間プレーできない。それでも大学サッカーは何とかやり切ろうと試合で残り20分間プレーするような日々を続けた。
「それが2024年10月、11月くらいでした。年明け1月にジェフに合流することになっていたので、12月は焦りがすごかったんですよね」
思うようにプレーできない。これではプロで通用しない。猪狩は焦っていた。
「でも、サッカー選手ってどこかに痛みを抱えているものじゃないですか。だからやれるって思っていたんですよね」
そうして自分を追い込んでいった。気づけば、プレーを邪魔するものは足首の違和感から体調の不快感に変わっていた。
日々鍛えてきたはずの体が、階段の昇り降りだけ悲鳴を上げる。めまいがする。サッカーをするどころか、買い物に行くことすら困難になった。
千葉のトレーニングにはひとまず神奈川の実家から電車で通うことになったのだが、思うように乗れない。普通に乗れれば間に合う電車の2、3本前に乗っていくのが日常になった。
どうにもならない日々が続く。トレーナーに相談して、午前のトレーニング中にメディカルチェックを行い、午後のトレーニングで軽くパス回しをしているときだった。
「あ、もう明日から練習できない」
何かが切れた気がした。急に苛まれた気持ちをスタッフに素直に伝えると、帰宅を勧められた。
何もかもがうまくいかない。何もやりたくない。あんなに楽しかったサッカーが嫌いになってしまう――。
オーバートレーニング症候群だった。
休む決断が変えたもの

千葉ダービーでも躍動する猪狩祐真【写真:Getty Images】
もっとやれる。ちゃんとやっているはずなのに、なんで?力が入らないのでトレーニングをした気にならず、さらに自分を追い込む。その結果もうまくいかず、さらに落ち込む。
悪循環でしかなかった。オーバートレーニング症候群は決して精神的に弱い選手が陥る症状ではない。真面目すぎる性格が仇となった。
通常は別調整の選手もチームがトレーニングしている時間に室内やピッチで体を動かすことが多いが、猪狩は完全にチームと別行動となった。体調と向き合い、少しでも調子が悪ければ休む。
その中で、できることをやる。そうして猪狩がチームメイトと一緒にトレーニングできるようになったのは昨年の9月だった。すべてのきっかけである膝の負傷から、気づけば1年半が経っていた。
それからの猪狩は鮮烈だった。千葉のクラブハウス、ユナイテッドパークのピッチで見せる技術力や突破力は出色であり、長らくピッチを離れていたこと、ましてや精神的な問題を抱えていたことなどつゆほども感じさせない。
結果としてメンバー入りすることはなかったが、当時はJ1昇格プレーオフでシンデレラボーイとなっても不思議ではないと思わされた。
今季は開幕から出場機会を得て明治安田J1百年構想リーグ第12節終了時点で10試合に出場しているのもまったく驚きではない。むしろ、まだまだこんなものではない、もっと活躍できると思うほどだ。
オーバートレーニング症候群は精神的な問題であり、公にしたがらない選手もいる。
だが、試合後に宮城や松長根や神橋、さらに川崎U-12時代の監督である佐原秀樹コーチと旧交をあたためた猪狩は、等々力の取材エリアで堂々と胸を張った。
「僕はオーバートレーニング症候群になってもここにたどり着きました。これからもプロを目指す過程でオーバートレーニング症候群になる選手はいると思います。
そういう選手の励みにもなりたい。だから、もっとやらないといけないし、もっと活躍します」
(取材・文:菊地正典)
【著者プロフィール:菊地正典】
福島県出身。埼玉大学卒業後、当時、日本最大級だったサッカーモバイルサイトの編集・ライターを経て、フリーランスに。主にサッカー専門新聞『EL GOLAZO』の記者として活動し、横浜FC、浦和レッズ、ジェフユナイテッド市原・千葉、横浜F・マリノス、川崎フロンターレの担当記者を歴任。著書に『浦和レッズ変革の四年 〜サッカー新聞エルゴラッソ浦和番記者が見たミシャレッズの1442日〜』(スクワッド)、『トリコロール新時代』(スクワッド、三栄書房)がある。Xのユーザー名は@masanorikikuchi
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