「その瞬間、涙をこらえていた。」約10ヵ月ぶりにピッチへ戻ったジェフユナイテッド千葉の田中和樹は、大きな歓声に迎えられながらも感情を押し殺していた。長期離脱を経て踏み出した復帰の一歩。しかし、その胸にあったのは安堵ではなく、「J1昇格に貢献できなかった」という強い後悔だった。復活の裏側にある覚悟と現在地を追う。(取材・文:石田達也)[1/2ページ]
明治安田J1百年構想リーグ・地域リーグラウンド第13節
ジェフユナイテッド千葉 2-3 横浜F・マリノス
フクダ電子アリーナ
「戻ってきたなっていうことを実感した」瞬間
「おかえりなさい」
試合後のミックスゾーンで報道陣が声をかける。その言葉を受け止めたFW田中和樹の、どこか遠くを見つめるような表情に、思いが詰まっていた。
ベンチ脇でのウォーミングアップへの熱量がこもる。体の隅々まで刺激を入れ続けるとコーチから声がかかり、田中がタッチライン際に立った。
選手交代ボードには42から7が表示されている。
MFイサカ・ゼインと右手でハイタッチを交わし、約10ヵ月ぶりとなった公式戦のピッチに、そして念願のJ1の舞台に足を踏み入れた。
2点差を追う80分。田中は大きな歓声と万雷の拍手で迎えられた。
「意外とすんなり(ピッチに)入れたというか、ウォーミングアップの時がやっぱり一番戻ってきたなっていうことを実感しました。
試合が始まったら、もうずっと自分にフォーカスをしてアップを、どれだけできるかだと思っていたので、試合はあまり見ずに自分と向き合っていました」
「本当は泣きそうになったんですけど…」
フクダ電子アリーナで行われた明治安田J1百年構想リーグ・地域リーグラウンドEAST第13節は、最下位脱出を狙うジェフユナイテッド千葉と8位の横浜F・マリノスによる対決だった。
今シーズン初となる田中のベンチ入りが発表されると試合前のホーム側スタンドには背番号7の特大ビッグフラッグと「待ってたぞ田中和樹! 共に闘おう!」と書かれた横断幕が掲示され、田中の復帰を喜ぶサポーターの姿があった。
もちろん、ウォーミングアップ時に、ボールを蹴る田中の目に入らないはずはなかったが、あえて溢れ出そうな感情を封印していた。
「本当は泣きそうになったんですけど、ちょっと見過ぎたら危ないなと思ったんで、すぐウォーミングアップに切り替えました」
加えて「すごくありがたかったです」と感謝の言葉を続けた。
試合の立ち上がりはホームの千葉が主導権を握る。
15分、スローインからFW石川大地が運び、走り込んだMF津久井匠海のシュートが相手ディフェンダーの腕に当たりPKとなる。
これをFWカルリーニョス・ジュニオがGK朴一圭の動きを見て右足で冷静に沈め、1点リードのまま後半を迎えた。
しかし、流れはマリノスに変わる。
ギアを上げた背番号7「感覚的には…」
48分にカウンターを止めきれずFW谷村海那にボレーシュートで流し込まれて同点に。
直後の58分には左サイドからのクロスを再び谷村に押し込まれ逆転を許すと、63分、シュートの弾きをDF井上太聖に捻じ込まれ3失点を喫する展開となった。
ここで選手交代を行い、反撃を試みる千葉。そのラストカードになったのが田中だった。
左SHのポジションに付くと、直ぐに背後へのボールをチームメイトに求め、試合の雰囲気や流れに慣れてくると背番号7がギアを上げる。
85分にDF日高大のパスを受けるとドリブルで突き進み、グラウンダーのクロスを送る。
88分には自陣でのCKのこぼれ球を回収。田中がボールを受けると約50メートル以上を独走するなど存在感を見せた。
「ゴールに向かって絶対に仕掛けていこうと思っていました。ちょっと足につかない部分もあったんですけど、感覚的には全然良かったかなと思います」
小林慶行監督からは「左サイドに縛られずに、色々なところに裏抜けしていいと言われた」という。
さらに「残り時間も10分ぐらいだったので体力的にもいけるだろう、と背中を押されたので、気持ち良くと言うか、しっかりやれたなと思います」と語り口は冷静に、淡々と振り返り、自身のプレーを見つめた。
その後、90+10分にMF杉山直宏のシュートをFW呉屋大翔がコースを変えてネットを揺らし1点差に縮めたが直後に試合は終了した。



