ベガルタ仙台の中田有祐【写真:Getty Images】
5月10日、明治安田J2・J3百年構想リーグ第16節のヴァンラーレ八戸戦でPK戦勝利を飾り、地域リーグラウンド1位を確定させたベガルタ仙台。連戦が続いた中、新エース候補として頭角を現したのが今季、阪南大学から新加入したFW中田有祐だ。昨季から特別指定選手としてプレーし、栃木SC戦では待望のプロ初ゴール。成長の裏にあったのがクラブの歴史を彩った2人のOBストライカーからの助言だった。(取材・文:郷内和軌)[1/2ページ]
生き残りを懸けた「サバイバルウィーク」
今季、阪南大学から加入したベガルタ仙台の中田有祐【写真:小林健志】
5連戦を間近に控えた4月22日。トレーニング後、取材に応じたストライカーは並々ならぬ覚悟を誓っていた。
「前半戦は特に何もできず、不甲斐ない結果で終わってしまいました…。でも、後半戦が残っていますし、まだ挽回できるチャンスはある。日頃の積み重ねでしか結果は得られないので、毎日を大切にして、終わったときに少しでも爪跡を残すことができたらと思います」
そのストライカーとは、今季、阪南大学から新加入したFW中田有祐だ。
ベガルタ仙台のユース出身で、大学3年時の昨季は特別指定選手としてリーグ戦12試合に出場。その活躍が評価され、2027シーズンからの加入内定を1年前倒ししてプロ契約を締結した、将来を嘱望されるルーキーである。
大型連戦を迎えるにあたり、大幅なターンオーバーを示唆していた森山佳郎監督。「多くの選手にチャンスを与えたい」という前向きな表現をする一方で、こんな言葉も残していた。
「5連戦が終わると、湘南ベルマーレ戦、横浜FC戦、プレーオフラウンドと続きます。この連戦で出場時間をつかみ、自分の可能性を広げられる選手は来季に向けた戦力になるし、そこでチャンスをつかみ損ねた選手は、この競争に勝っていけない厳しい世界でもあります。クラブにとっても、個人にとっても、正念場のウィークに入っていくのかなと思っています」
11試合を終えて出場はわずか3試合、総プレータイムも57分にとどまっていた中田。彼にとって大型連休の5連戦は、まさに生き残りを懸けた「サバイバルウィーク」となった。
後輩たちの活躍に「何をしているんだろう…」
高卒2年目の南創太ら若手が結果を残し、中田有祐は忸怩たる思いを抱えていた【写真:Getty Images】
1月の新加入選手会見。マイクを握った中田は開口一番、渾身のボケでサポーターの笑いを誘った。
「はじめまして!」
昨年6月、モンテディオ山形とのみちのくダービーでプロデビュー。持ち前の高さと強さで存在感を集め、シーズン終盤のサガン鳥栖戦ではアディショナルタイムにFW小林心の決勝ゴールをアシストし、クラブ史に残る大逆転勝利の立役者となった。
「ナカタ」ではなく「ナカダ」。「有祐」と書いて「ユウ」。明朗なパーソナリティーもサポーターは織り込み済みで、多くの人が今季の飛躍を確信していたことだろう。
だが、ここは競争の世界。現実は甘くなかった。
2月7日の第1節・栃木シティ戦ではユースの後輩でもある高卒ルーキーのFW古屋歩夢がデビュー戦でいきなり初ゴール。
4月18日の第11節・栃木シティ戦では同じくユースの後輩でプロ2年目のMF横山颯大がデビュー戦でアシストを飾り、同25日の第12節・山形戦では高卒2年目のMF南創太が途中出場から値千金の決勝ゴールをマークする。
今季、クラブでは「ヤングリーダー」という役職を新設。その初代リーダーに就任したのが中田だった。
文字通り、若手を引っ張る立場としても期待がかけられていただけに、本人も忸怩たる思いを抱えていた。
「南や横山といった、いつも一緒にいる年下の選手が結果を出し始めていく中で、自分はピッチに立つ回数も少なく、(自らに対して)『何をしているんだろう…』という気持ちがずっとありました」
それでも、いつか巡ってくるチャンスに備え、普段の練習やトレーニングマッチでアピールを続けてきた中田。その成長を支えていたのが、仙台の一時代を築いてきたOBストライカーたちからの助言だ。
中田有祐を支えたOB2人の存在「それが自分のモチベーションに」

ベガルタ仙台強化部の平瀬智行担当部長スカウト【写真:編集部】
3月14日、第6節のSC相模原戦。67分からピッチに立った中田は試合後、勝利を喜ぶチームメートの傍ら、あるコーチと身振り手振りを交えながらピッチ上で議論を交わしていた。
「あの試合は3-0でリードしていた中で試合に出場しましたが、ロングボールがチーム全体で増えてバタついてしまい、守備に回る時間が長くなってしまいました。
その原因の一つとして、自分がボールを収められず起点になれなかったというのがあり、消化不良と言いますか、自分の中でも迷いみたいなものがあったので、どういうボールの引き出し方、プレーの選択をしたら良かったのかを話しました」
その相手とは、今季からトップチームの指導にあたる中原貴之コーチ。2003年から通算11年間、仙台に在籍し、2009年のJ2リーグ戦では10ゴールを挙げてJ1昇格に貢献。サポーターからは「野獣」の愛称で親しまれた、稀代のエアバトラーだ。
実は中田と中原コーチは、仙台ユース時代も選手と指導者として共に戦ってきた間柄。
「接し方や指導方法は当時から変わりませんし、懐かしい気持ちもありますが、求められるクオリティーは間違いなく上がりました。中でも、競り合いで(相手DFに)体を当てるタイミングや、ボールの位置に応じたポジショニングは細かく指導してもらっています。
タカさん(中原コーチ)に指導していただけるのはとてもありがたいですし、少しずつ教えを自分のものにしていきたいです」
そして、もう1人、中田のプレーをそばで見守ってきたのが、現在、仙台の強化部に在籍する平瀬智行だ。
現役時代はカップ戦を含めてJリーグ通算62ゴール、シドニー五輪世代を代表する万能型FWで、仙台では2008年から3年間プレー。2010年の現役引退後もクラブに残り、2021年からは強化部の一員としてトップチームとアカデミーの強化を担っている。
「平瀬さんからは主にクロスの入り方についてアドバイスを受けています。その中でもニアに突っ込む意識を要求されていて、いつも『ニアでつぶれろ!』と指導されることが多いです」
そんな中田にとって、平瀬はプロの道を切り開いてくれた「恩人」でもある。
「自分がユースの最終学年のときに強化部にいらっしゃったので、当時から面識はもちろんありましたし、大学に行ってからも頻繁に試合を見に来てくださりました。それが自分のモチベーションにもなり、『仙台に帰りたい』という気持ちが揺らがなかった要因の一つでもあるので、ピッチ内外でお世話になっている存在です」
さまざまな教えを胸に、腐らず、懸命に準備を続けてきた中田。その努力が花開いたのが、5月6日の第15節・栃木SC戦だった。