フットボールチャンネル

WEリーグ 5時間前

岩清水梓、泣き笑いの引退試合。“サッカーの神様”は背番号33に微笑んだ「ゴールするかしないかの最後の一本だな」【コラム】

シリーズ:コラム text by 竹中愛美 photo by © WE LEAGUE,Editor
引退セレモニーで涙を浮かべる日テレ・東京ヴェルディベレーザの岩清水梓

今季限りで現役を引退する日テレ・東京ヴェルディベレーザの岩清水梓【写真:© WE LEAGUE】



 なでしこジャパン(サッカー日本女子代表)では世界一に貢献。日テレ・東京ヴェルディ・べレーザではクラブ一筋およそ26年、国内タイトル27冠を達成するなど、女子サッカーの一時代を築いた岩清水梓が5月16日、引退試合に臨んだ。39歳の緑のレジェンドがピッチで表現したものとは何だったのか。(取材・文:竹中愛美)[1/2ページ]

2025/26 SOMPO WEリーグ 第22節
日テレ・東京ヴェルディベレーザ 2-1 アルビレックス新潟レディース
味の素フィールド西が丘

「日々の練習がなかなか困難に」泣き笑いの引退セレモニー

引退セレモニーで息子から手紙を贈られる日テレ・東京ヴェルディベレーザの岩清水梓

引退セレモニーで息子から手紙を贈られる日テレ・東京ヴェルディベレーザの岩清水梓【写真:© WE LEAGUE】

「ママへ。サッカー頑張ったね。サッカーやってるママもカッコよくて大好きだったよ。これからもお庭でサッカーしようね」

 6歳の長男が母であり、サッカー選手である岩清水梓に手紙を読み上げた。家族からは花束を受け取り、いよいよファン・サポーターへ引退のスピーチをというところで岩清水はすでに感極まっていた。

「泣かないのは無理なので、泣きながら喋ると思いますけど、たくさん足を運んでいただいて、本当にきょうはありがとうございました」

 涙ながらにも言葉を繋いだ。

「自分が引退を決断したのは自分が理想とするプレーだったり、日々の練習がなかなか困難になってきて、トップの選手として表現することが難しくなってきました。

 今でも、これから先もピッチに立ちたい気持ちもあるし、サッカーを嫌いになったわけではないので、このピッチに立つことがないのはちょっと悔しい気持ちもあります。それでも自分の中では毎日の練習がすべてで、それを表現することが難しくなったので決断しました」



 引退を決断した理由を話し終えると、これまでの思い出、そして、これから先の話にも触れた。徐々に岩清水にも笑顔が戻ってきた。

「(眞城)美春、最後にPKを蹴らせてくれてありがとう。WEリーグでゴールを決めてなくて、それだけが心残りかなと思っていたんですけど、コーナーキック(CK)で決めれなかったのが自分の実力かなと思いますし、そこで美春が(PKを)取ってくれて、最後にゴールできて、本当に満足です」

 先ほどまで泣いていたのが嘘のように、表情は晴れやかだった。

「イーワシミズ!」

 ファン・サポーターから岩清水に送られたコールが、味の素フィールド西が丘に響き渡る。まるで、彼女の引退を惜しむかのように。

 引退試合は、サッカーの神様がまだ微笑んでくれているようだった。

「『蹴らしてくれよ』なんて言えなくて」岩清水梓と眞城美春が語るPKの裏側

引退試合でPKを蹴る日テレ・東京ヴェルディベレーザの岩清水梓

引退試合でPKを蹴る日テレ・東京ヴェルディベレーザの岩清水梓【写真:© WE LEAGUE】

 ホームで行われたリーグ最終戦で岩清水はキャプテンマークを巻き、センターバックとしてスタメンに名を連ねた。

 守備では球際で激しく相手に当たり、眞城美春への正確なロングフィードも見事だった。

 前半を0-0で折り返したベレーザは47分、眞城のゴールで先制点を奪う。追加点を狙うベレーザはCKから岩清水が打点の高いヘディングでゴールに迫るが、枠のわずか上へ逸れた。

 チャンスを活かしきれずにいると、直後の60分、アルビレックス新潟レディースの滝川結女にゴールを決められ、同点とされてしまう。

 後半中盤、新潟に押し込まれる時間帯が増えていくが、CKでは岩清水をターゲットにするなど、なんとかして岩清水の国内ラストゲームを良い形で締めくくりたいという思いが感じられた。

 すると、72分。その思いが通じたのか、CKのこぼれ球に反応した眞城がPA内で倒され、PKを獲得。スタンドからは眞城がボールを持っていたように見えたが、気付けば、岩清水がボールをセットしていた。

 これには岩清水が試合後に裏側をこう答えている。



「最後の試合でPKがあったら蹴るかなという気持ちはあった。けど、実際にそうなっちゃったら、『蹴らしてくれよ』なんて言えなくて。『美春がとったから美春でしょ』みたいな感じで送り出そうとして、(楠瀬直木)監督をパッて見たら、『お前が蹴れよ』みたいな指示をくれて。

『はい』と腹を括って、『美春、蹴らしてくれ』と言って、ボールをもらった流れがあった。これはたぶん、自分がWEリーグでゴールするかしないかの最後の一本だなというのはあったので、独特の緊張感がありました。けど、ここ最近、結構PKの練習はしていたので、思いっきり蹴ろうという気持ちしかなくて」
 
 PKを獲得した当の眞城は「最初、イワシさんに蹴って欲しいなと思ったんですけど、『あっ、いいよ。美春』と言ったので、ボールを結構ガッて持っていたと思う。そうしたら、『やっぱり』という感じだったので、『どうぞどうぞ』って感じでした(笑)」と笑いながらもうひとつの裏側を明かしてくれた。

 かくして、冒頭の岩清水の引退スピーチにもつながるわけだが、このPKをしっかりと左上に決めてみせた。

 リーグ戦はこれまで、なでしこリーグとWEリーグを合わせて、313試合に出場していたが、意外にも岩清水にとってWEリーグ初ゴールとなった。

 しかも、それが自身の引退試合でチームの勝ち越しゴールとなるわけだから、やはり、サッカーの神様は背番号33に微笑んでくれたのかもしれない。

 これ以上ないと言わんばかりのシチュエーションで、岩清水は81分、ピッチを後にする。

岩清水梓が長く第一線でサッカーを続けられてきた原動力とは

引退試合で花道を作られ、ピッチを後にする日テレ・東京ヴェルディベレーザの岩清水梓

引退試合で花道を作られ、ピッチを後にする日テレ・東京ヴェルディベレーザの岩清水梓【写真:© WE LEAGUE】

 自然と、両チームの選手たちがピッチ中央に花道を作り、岩清水を迎え入れていく。「ガード・オブ・オナー」とも言われるこの光景がなんとも微笑ましかった。

 試合はこのままベレーザが2-1で逃げ切り、岩清水の引退試合に花を添える形となった。

「勝つのは簡単じゃないことをきょうの展開も含めてですけど、簡単には勝たせてくれる試合はないし、サッカーはそういうもんだなということを改めて感じました。最後に勝って、笑顔で終われて安心しました」

 中学1年生のときから日テレ・メニーナでプレーし、緑のユニフォームに袖を通しておよそ26年。クラブの黄金期を支え、なでしこジャパン(サッカー日本女子代表)の一員としても世界一を掴むなど、日本の女子サッカー界に与えた影響は大きなものがある。

 2020年には第一子を出産。育児と競技を両立させながら、現役を続行させてきた。2024年の夏、左膝前十字靭帯損傷の大怪我を負うが、長いリハビリを乗り越えて、昨季のリーグ優勝を決めた最終節で復帰を果たすなど、逆境を跳ね返してきた。



 これまで長年にわたり、第一線でサッカーを続けられてきた原動力はどこから生まれていたのだろうか。

「結局、サッカーが好きで、負けず嫌いだから。自分の根本が負けず嫌いでできているので。練習ひとつでも、『これができなかった。じゃあ、あれをやろう』みたいな、ずっと根底には勝ちたい、負けたくない、そんなのがずっと続いていた。

 ベレーザって、優勝し続けたシーズンもあるし、負けて勝てないシーズンも続いたり、面白いことに浮き沈みがあったチームだったとは思う。でも、悪いときは良いときに持っていかなきゃなというふうな使命感もあった」

 負けず嫌いが根底にあり、サッカーを長く続けてこられたという岩清水。その長い現役生活の中でも忘れられない試合がある。

1 2

KANZENからのお知らせ

scroll top
error: Content is protected !!