ドイツを4-1で破った夜、日本代表にはこれまでにない空気が漂っていた。『W杯優勝』を当たり前のように語る感覚。それは単なる勝利ではなく、日本サッカーの基準そのものが変わり始めていることを示していた。ドイツ在住経験を持ち、日本代表を継続取材するスポーツライター・ミムラユウスケが、その変化の正体をひも解く(取材・文:ミムラユウスケ)[2/2ページ]
「ワールドカップの時とは少し変わったのかな」
2つ目が、守備の<忍耐力>と<適応力>だ。
ドイツは攻撃時に{3-2-5}のような形を取り、トップ下のギュンドガンやフロリアン・ヴィルツが高い位置で数的優位(5対4)を強いてきた。板倉は事前の想定をこう明かしていた。
「相手のトップ下の2人(*ギュンドガンとヴィルツ)も高い位置をとってきて、自分たちの最終ラインから見て、4対5の数的不利になる状況になるというのは試合前からわかっていました。それでも自分たちは『4枚で守ろう』と話をしていて。
その分、横ずれの運動量が多くなると予想して試合に入りました。そこで遅れを取らずに、ボールサイドに、みんながコンパクトに、両サイドの味方を感じながら動けていました」
唯一の失点はザネのゴール。相手が日本の右サイドを起点にして、中央→左サイドと流すことで、日本の守備陣はスライドが間に合わなかった。
日本の最終ラインで数的不利が生まれるような局面を作られ、そこで仕留められてしまった。
それでも全体の安定は崩れなかった。守田はザネ対策をこう話した。
「あそこで持たれてしまう感じはありました。でも、ズルズルと引かずに、一応最低限のラインは決められてはいたので。
あとは、伊藤洋輝が2対1の状況をうまく作って、対処してくれたかなと」
ハーフタイムで森保監督は{5-4-1}へとフォーメーションを変更した(攻撃時は{4-2-3-1}のままだった)。
そして、58分には谷口彰悟を投入し、完全に5バックへ移行した。そのミッションをたくされてピッチに立った谷口は言った。
「5枚並べることによって、後ろに重たくはなります。前半と比べると、ちょっと下がってしまう部分はありました。それでも『5枚にしたらそういう現象は起こりうる』とみんな理解はしていましたから。
しっかり我慢して、1―2の状態を保ちながら、カウンターで3点目、4点目を狙いに行く戦い方だったので。『隙があったら、少しずつ上げていこう』とずっと話していましたし、目を合わせながらやれていたので。そういったところがワールドカップの時とは少し変わったのかな、と」
その言葉に嘘はない。後半、ドイツのボール支配率は76%に達したが、シュートは5本(枠内1本)。一方で、日本は9本中8本枠内に飛ばした。
試合後にハンジ・フリック監督は苦々しく認めるしかなかった。
ドイツの選手を上回った自信の“正体”
「(後半に)我々は攻撃で多くのことにトライしたが、後方のポジションで多くの失敗をしてしまった。ただ、その失敗は、相手が我々に襲い掛かってきたことで生まれたもの。だから、日本は勝利に値したのだ」
キミッヒはドイツの守備の問題を指摘した。
「日本のようにしっかり守ってくる相手に対して、僕たちは問題を抱えていた」
さらにキッカー誌はこう分析した。
「日本の〈5-4-1〉への変更は(攻撃時に中央に入る役割を担っていた右SBの)キミッヒをさらに中央へと追い込むことになった。もっとも、それとともに向上したボール支配率は、ゴールチャンスにはつながらなかった」
そうした強豪とのアウェーゲームで<意志の力>と<適応力>を披露したことは、十分に評価に値する。そして、それらの積み重ねが生んだのが、もう一つの差である。
それが<自信>だった。
キミッヒは試合後、最大の差をこう語った。
「日本はさらに追加点を奪うだけのチャンスをつかんでいた。一方、僕たちは自分たちの持つクオリティーをピッチで表現できなかった。僕たちは自信を欠いていたんだ」
対する日本は、ドイツが欠いているものを持っていた。遠藤は証言した。
「一人ひとりの自信ですよね。ドイツに対して、目の前の相手に対して、1対1で上回れると後ろの選手も含めてみんなが思っているはずで。おそらくそこは、所属クラブでも結果を残している自信から来るものです」
板倉も同様の感覚を共有していた。
「本当に、今はたくさんの選手がヨーロッパでプレーしていますから。僕はここに来る前にもバイエルンと試合をしていて、相手には同じメンバーが結構いました。そういう相手と普段からできているのは大きいと思う。
彼らのことをリスペクトはするけど、自分たちが下だとか、相手が上だとかいう感覚は誰も持っていないと思うし。それがプレーにもつながったと思います」
では、この<自信>はどこから来たのか。
遠藤の言葉にある「所属クラブでも結果を残している」という部分に、答えの核心がある。
これまでは日本人の弱点だと思われていた
その〈自信〉を支えていたのが、この試合で最も革命的な変化としてあらわれていた<フィジカル>の進化だった。
数年前までは信じられなかった光景がピッチの上では広がっていた。
28分、遠藤航がギュンドガンに身体を当てて吹き飛ばし、ボールを展開した場面。遠藤の証言はこうだ。
「身体を上手く当てながら、先にボールを触れていたので。自分も倒れないのが一番の理想でしたけどね。でも、あれは大事な部分というか、ああいうところで勝てるか、勝てないかで、状況は大きく変わっていくと思う」
45分、冨安健洋がザネを身体で抑えてクリアした場面も同様だろう。
なぜ、これが革命的なのか。
これまで技術で上回ることはあっても、<フィジカル>でヨーロッパの強豪を圧倒する場面は稀だった。むしろ、そこが日本サッカーの課題だと指摘されてきた。
しかも、ドイツはヨーロッパの中でも大柄な選手や強い選手の多い国だ。にもかかわらず、この試合では日本の選手が逆に<フィジカル>で相手を上回る場面が度々あった。
遠藤はさらっとこう話した。
「今の選手たちは(フィジカル面の進化を)別にそんなに気にしていないんじゃないですか? 『ああいう場面での1対1に勝ったからすごい』などとは“考えていない”という言い方が良いですかね。むしろ、『ああいうことを当たり前にやらないといけない』と思ってやっているので」
鎌田も同様の変化を実感している。
「ここ数年は、みんなが日本人っぽくないというか。もちろん、身体が強いだけではなくて、(身体を)当たるタイミングだったり、予測だったり、いろいろな部分で、上回れるようにみんなが考えながらやっているとは思いますけど……。
足の速さだったり、身体能力の部分だったり、日本代表にはヨーロッパ(で長く活躍する選手)に近いような選手がたくさんいるなという感じはあります」
菅原は右サイドから2本のクロスでゴールに絡み、長年の思いをこう語った。
「自分たちのサッカーを、こういう強豪国相手にやりたいと言うのは長年考えていたところなので。そういった中でこういうサッカーができたのは、大きいと思います」
各選手が饒舌になるなか、遠藤はこの勝利の意味を、次世代にまで広げて総括した。
「すごく、大きいと思いますよ。僕が子どもの頃は、(日韓W杯で)ブラジルが優勝しているのを見ていて、ブラジルが強いなと感じたり。(準優勝だったドイツの)オリバー・カーンがすごいと感じていて。『ドイツが強い』みたいなイメージは、子どもの頃にテレビを見てついたものなので。
逆に、今の子どもたちは、日本がドイツに勝てると思うわけですよ。彼らが大人になって、プロサッカー選手になったときに、そういう気持ちはすごく大事だなと思います。
『日本って、W杯優勝を目指している国なんだよね』みたいな意識が出るわけですから」
ただ、一つの疑問が残った。この強さは、ベストメンバーだから発揮できたものなのか。3日後、その答えが出た。
[第6回へ続く]
(取材・文:ミムラユウスケ)
【著者プロフィール】
2006年7月にスポーツライターとしての活動をはじめ、2009年1月にドイツへ渡る。ドルトムントやフランクフルトに住み、ドイツを中心にヨーロッパで取材をしてきた。2016年9月22日より、拠点を再び日本に移す。『Number』などに記事を執筆。内田篤人との共著に「淡々黙々。」、岡崎慎司の著書「鈍足バンザイ!」の構成も手がけた。
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【了】




