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コラム 6時間前

なでしこジャパン熊谷紗希があえて「最後のW杯」と口にした理由。「現役の自分がやることに意味がある」未来へつなぐバトン【コラム】

シリーズ:コラム text by 竹中愛美 photo by Getty Images,Editor

自身がプロデュースする次世代育成プロジェクト「SAKI KUMAGAI WORLD CHALLENGE」の実施報告を行ったなでしこジャパンの熊谷紗希

なでしこジャパンの熊谷紗希【写真:編集部】



 今年2月、熊谷紗希を取材した際、「SAKI KUMAGAI WORLD CHALLENGE」は、まさにロンドン遠征を目前に控えたプロジェクトだった。なでしこケア設立当初から抱いてきた「子どもたちへ経験を還元したい」という思いは、この春、実際に4人の少女をロンドンへ送り出す形となった。そして、熊谷自身も新シーズン、来年のFIFA女子ワールドカップへ向けた「勝負の1年」を迎えようとしている。(取材・文:竹中愛美)[2/2ページ]

「最後のワールドカップ」。初めて口にした覚悟

狩野倫久監督新体制初陣、南アフリカ代表戦での熊谷紗希

なでしこジャパンの熊谷紗希は来年のFIFA女子ワールドカップを「最後のW杯」として臨む【写真:GettyImages】


 報道陣から「あえて今回、最後のW杯と口にした理由は?」と問われると、熊谷は少し笑いながらこう返した。

「いや、もう公言して…いや、もういい、もうね。もうでしょ?っていうのはありません?」

 記者から「そんなことはないです」と返されると、熊谷は頭の中を整理していたのか、徐々に真剣な表情になっていった。

「結構前から最後のW杯かなと思ってやってはいたんですけど、実際いよいよじゃないけど、本当に最後だなと思っています。自分の集大成としてぶつけたい、この1年というところ。そういった覚悟を持った上で、しっかりと最後のW杯と口に出して言っていきたいなというか、言ってもいいなと思っています」

 以前から心の中では区切りを意識していた。ただ、それを公の場で自ら口にしたのは今回が初めてだった。

 熊谷は以前から女子W杯での目標として「優勝」を口にしてきた。

 それは決して軽い言葉ではない。男子のW杯では日本代表が優勝を目標に掲げていながらも厳しい結果に終わった。そのことについて話題を振られたとき、熊谷はこう話している。

「私は優勝という言葉を言うことが悪いとは全く思わないです。その言葉への責任だったり、その言葉を言うからにはやるべきことはたくさんあると思っていて。ちゃんとした正直なコメントをもらいながら成長していくべきだなとも思っていて。私自身も集大成として優勝してというところは覚悟を持って言葉に出しているので、そこに向けて、とにかくやるだけだなと思っています」

 ただ、それは「気負い」とは違う。

「ここまでも本気でしたけど、これまで以上に本気でなきゃいけないなとは思っています。ただ、別にそれは気負いというよりかは自分の中の本気という意味で、本当にこの一年をやりたいなって気持ちなので、気負いはないです」

 歯に衣着せぬ言葉の中に、長年世界の第一線で戦い続けてきた熊谷らしい強さがにじんでいたように思う。

 女子W杯開幕まで1年を切った。なでしこジャパンは今年5月から狩野倫久監督新体制となり、新たなスタートを切っている。

世界一へ。始まる「勝負の1年」

自身がプロデュースする次世代育成プロジェクト「SAKI KUMAGAI WORLD CHALLENGE」の実施報告を行ったなでしこジャパンの熊谷紗希は、フォトセッションでゲストの浜野まいかとプロジェクトをともに進める大滝麻未と写真におさまった

(写真左から)なでしこケアで理事を務める大滝麻未氏となでしこジャパンの熊谷紗希、ゲストとして登壇した浜野まいか【写真:編集部】


「監督が代わって、求められることもある中で、その求められていることをピッチで体現するためには本当にもっともっと選手たちの能力アップだったり、スキルアップは不可欠だなと改めて思っています」

 当然、この1年で代表争いも激しくなる。

「W杯で優勝するために、そのメンバーに入るためにという争いもここ1年は絶対にあって。そこで結果を出すというか、結果を出さなきゃいけない集団で、結果を出すために自分たちがやるべきことをやらなきゃいけないなとは思っている。すべてはそこに向けてなでしこジャパンのチームとしても個人としても臨んでいきたいなと思っています」

 所属するイングランド・ウィメンズ・スーパーリーグ(WSL)のロンドン・シティ・ライオネスでの新シーズンもまもなくはじまろうとしている。

 昨季初めてWSL昇格を果たした新興クラブだが、新シーズンに向けては大型補強が相次いでおり、2度のバロンドール受賞を誇るスペイン代表のMFアレクシア・プテジャスやDFマピ・レオン、GKメアリー・アープスの加入が決まっている。

 世界クラスの選手の加入は熊谷にとって、刺激になっているようだ。

「一緒にやれるのもだし、そことレギュラー争いするのも含めて、すごく楽しみです。クラブ自体、それこそ本気できているので、そこの中でどれだけ自分がピッチに立ってチームのためにできるかというところと、そこで戦っていきたいなというか、しっかり試合に出たいなというのはあるので、本当にいろんな意味で勝負の1年になるかなと思っています」

 勝負の1年の中で世界一を目指すことは、自分自身の夢であると同時に、未来の子どもたちへの責任でもあると、熊谷はそう考えている。

「見てくれた子どもたちが自分たちもここに立ちたい、こんなふうになりたいなって思ってもらえるような一選手でありたいですし、なでしこジャパンのチームでありたい。それは代表選手に責任はすごくあると思います。

 そうすることで、このプロジェクトもそうですけど、未来の女の子たちにしっかりバトンを渡していけるといいなと思っているので、自分たちの責任を果たして、結果も出していきたいと思っています」

 現役選手として世界の第一線で戦いながら、未来の女子サッカー選手へ経験をつないでいく。その両方を担える時間は、決して長くはない。

 熊谷が来年の女子W杯を「最後の挑戦」と口にしたのも、そんな限られた時間への覚悟も重なっているように感じられた。

 大舞台で世界一になることこそが、未来へ最高のバトンを渡すことになると、信じているはずだ。

「初めてのW杯で優勝して、最後のW杯で優勝できたら本当に幸せなことでしかないと思うので、とにかくそこに向かうのみかなと今思っています」

 15年以上、世界の最前線を走り続けてきた熊谷紗希。現役選手として世界一を目指しながら、その経験を次の世代へとつないでいく。それが、熊谷が今だからこそ果たそうとしている役割なのだろう。来年、自身最後と位置づける女子W杯で、その挑戦は一つの集大成を迎える。

(取材・文:竹中愛美)

【著者プロフィール:竹中愛美】
1990年、北海道生まれ。Jリーグ開幕で世の中がサッカーブームに沸いていた幼少期、「入会したらヴェルディ川崎のボールペンがもらえる」の一言に釣られて地元のクラブでサッカーを始める。以降、サッカーの魅力に憑りつかれた日々を送ることに。ローカルテレビ局時代に選抜甲子園や平昌冬季五輪、北海道コンサドーレ札幌などを取材し、2025年よりカンゼンに所属。FWだったからか、この限られた文字数でも爪痕を残したいと目論むも狭いスペースの前に平伏す。ライターとして日々邁進中。

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【了】

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