
日本代表FW塩貝健人【写真:Getty Images】
2026 FIFAワールドカップ北中米大会(北中米W杯)のラウンド32・ブラジル戦の前、日本代表FW塩貝健人の発言が思わぬ炎上を招いた背景には、日本代表のメディア対応とリスクマネジメントの不備があった。セリエAの選手たちの徹底した言葉選びや、イタリア代表を巡る”挑発”騒動と比較しながら、今後の戦いに向けた課題を考える。(文:佐藤徳和)[2/2ページ]
「イタリアの選手であれば…」

ラツィオ時代の鎌田大地【写真:Getty Images】
鎌田は、日本の大手スポーツ紙のインタビューで、「正直、ラツィオでこれほどプレーする時間が少ないとは思っていなかった」と不満を漏らした。
このコメントについて、『ラ・ガッゼッタ・デッロ・スポルト』のベテラン記者は、「鎌田は日本でインタビュー対応について指導を受けていないのか? イタリアの選手であれば、このような発言はしなかったはずだ」と語っていたことを思い出さずにはいられなかった。
セリエAの選手たちは、まるで箝口令が敷かれているかのように、なかなかコメントを発しない。親善試合で来日したASローマやインテルの選手たちも、ミックスゾーンではほとんど質問に応じず、「クラブから止められているから答えられない」と口にする選手が大半だった。
こうした姿勢は、メディア対応だけに限った話ではない。日本のクラブでは、シーズン中でもファン向けの公開練習や交流イベントが開催されることが少なくないが、イタリアではそのような機会は滅多にない。ファンに開放されるのは、シーズン前のトレーニングキャンプで交流日が設けられる程度である。
日本のクラブや選手は、それだけファンへのサービス精神が旺盛であり、メディアやファンと接する機会も多い。だからこそ、選手は日頃から発言に細心の注意を払う必要がある。
露呈した日本代表のリスクマネジメント不足

塩貝の発言に明確に異議を唱えたブラジル代表FWマテウス・クーニャ【写真:Getty Images】
今回の日本代表招集メンバーで最年少の後藤啓介に次ぐ若さだった塩貝も、発言には注意を払うよう、どこかの段階で指導を受けていたはずだ。
しかし、本人に挑発する意図がなかったとしても、何とか話題を作ろうとするメディアによって、その発言は都合よく切り取られてしまう。
そして、その報道を日本のメディアを通じてブラジル側が知り、さらに煽るような形で記事にしたものと推測される。今はAIの発達によって翻訳も容易になり、日本語の発言であっても瞬く間に世界中へ広がる時代だ。
そう考えれば、日本代表は選手に対するメディア対応やリスクマネジメントが十分ではなかったと言わざるを得ない。
メディア対応も、ワールドカップを戦う上で重要な要素の一つである。チーム力、監督の手腕、分析力、イクイップメントといったものと同様に、決して軽視できるものではない。今回の一件は、日本代表にその意識が欠けていたことを露呈したと言えるだろう。
イタリア代表にも、2026年ワールドカップ欧州予選を戦っていた際、“挑発”と受け取られかねない行為があった。プレーオフ準決勝で、イタリアが北アイルランドを2-0で下し、決勝進出を決めた直後のことだ。
直近のイタリア代表にもあった、手痛い教訓

イタリア代表のジャンルイジ・ドンナルンマ【写真:Getty Images】
イタリアの選手たちは、もう一つの準決勝、ウェールズ対ボスニア・ヘルツェゴビナの行方をテレビモニターで見守っていた。PK戦の末にボスニアが勝利すると、ジャンルイージ・ドンナルンマらがガッツポーズを見せ、笑顔で喜ぶ様子が映し出された。
言葉による“挑発”ではなかったものの、その様子がカメラに撮影されていることに気付かなかったのは痛恨だった。しかも、その映像を撮影していたのはイタリア公共放送『Rai』である。イタリアは自ら墓穴を掘ったと言われても仕方がないだろう。
もちろん、アッズーリの選手たちにボスニアを挑発する意図はなかったはずだ。しかし、この歓喜は「ウェールズよりもボスニアの方が戦いやすい」というメッセージとして受け止められても不思議ではなかった。
結果的にボスニアのモチベーションを高めることになり、イタリアは決勝で敗れ、3大会連続でワールドカップ出場を逃した。
ワールドカップを戦う上で、挑発や相手を煽るように受け取られかねない言動は避けなければならない。塩貝の発言がなければ日本代表が勝てたか、知る由はない。
しかし、不必要なリスクは最小限に抑えるべきだった。今回の一件を見る限り、日本代表はチームとして戦う上で、選手のメディア対応に対する意識が十分だったとは言い難い。これは4年後へ向けた課題の一つである。
メディアにとっては物足りないことかもしれない。しかし、選手の発言は、つまらないくらいがちょうどいいのである。
(文:佐藤徳和)
【著者プロフィール:佐藤徳和】
1998年にローマでの語学留学中に、地元のアマチュアクラブ「ロムーレア」の練習に参加。帰国後、『ポケットプログレッシブ伊和・和伊辞典』(小学館)の制作に参加し、イタリア語学習書などの編集、校正、執筆に携わる。2007年から、フリーランスとして活動し、主にイタリア・サッカー記事のライティングに従事。2014年には、FC東京でイタリア人臨時GKコーチの通訳を務める。IL ROMANISTA、日本特派員。『使えるイタリア語単語3700』(ベレ出版)、『イタリア語基本の500単語』(語研)を共同執筆。日伊協会では、カルチョの記事を読む講座を開講中。X:@noricazuccuru
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【了】
