
3大会連続予選敗退のイタリア代表【写真:Getty Images】
世界中が熱狂したFIFAワールドカップ2026(北中米W杯)が、スペイン代表の優勝で幕を閉じた。その一方で、4度の優勝を誇るイタリア代表は3大会連続で予選敗退。本大会に出場できない中、イタリアの人々やメディアは39日間に及ぶ世界最大のサッカーイベントをどのように見つめ、報じたのか。現地の放送、新聞、ファンの反応、そしてFIFAを巡る議論から振り返る。(文:佐藤徳和)
アッズーリ不在でも消えなかった熱気

2010年以来に優勝したスペイン代表【写真:Getty Images】
世界最大のスポーツの祭典が7月19日、幕を閉じた。
史上初めて48チームで行われたワールドカップの頂点に立ったのは、スペイン代表だった。南アフリカで開催された2010年大会以来、2度目の戴冠である。
一方、4度の優勝を誇るイタリア代表は3大会連続で本大会出場を逃し、今回も大会を外から眺めることを余儀なくされた。
世界が熱狂した39日間、国際舞台でイタリアの名が脚光を浴びることはなかった。4年に一度の華やかな世界大会を、羨望のまなざしで見つめるしかなかったのである。
では、イタリアではこの間、ワールドカップがどのように報じられていたのだろうか。サッカーは人々の日常から姿を消してしまっていたのか。
決して、そんなことはなかった。
少なくとも、メディアの報道量や番組の充実度からは、「ワールドカップ優勝」を目標に掲げた日本にも劣らない盛り上がりが感じられた。
日本と同様に『DAZN』が全104試合をライブ配信した一方、日本の『NHK』にあたる公共放送『Rai』は、そのうち35試合を無料で生中継した。
さらに、試合終了後には『Notti Mondiali(ワールドカップの夜)』と題した特別番組を連日放送。約2時間にわたって、その日の試合をじっくりと振り返った。
元日本代表監督のパウロ・ロベルト・ファルカン、1982年スペイン大会の優勝メンバーであるマルコ・タルデッリ、フランチェスコ・“チッチョ”・グラツィアーニら、70歳を超えたレジェンドたちも出演した。
放送開始が深夜0時を回ることも珍しくなかったが、彼らは連夜、熱弁を振るった。
イタリア代表は本大会出場を逃した。それでも、日常の中でワールドカップの熱気を感じることは十分にできていた。
14ページを割いたイタリアのスポーツ紙

アルゼンチン代表【写真:Getty Images】
スポーツ紙も、多くの紙面をワールドカップに割いた。
1896年創刊で、ヨーロッパ最古のスポーツ紙とされる『ラ・ガッゼッタ・デッロ・スポルト』(以下、『ラ・ガッゼッタ』)も、自国が出場していないにもかかわらず、多くの特派員をアメリカ、カナダ、メキシコへ派遣した。
試合の内容はもちろん、開催都市の熱気や会場周辺の様子まで克明に報じている。
スペイン代表対アルゼンチン代表の決勝翌日の紙面では、この試合だけで14ページを割いた。
しかも、試合終了からわずか3時間足らずで紙面を完成させていることにも驚かされる。
ワールドカップを大々的に扱いながら、イタリア国内の各クラブ、F1、テニスなどのニュースもしっかりと報じられている。まさに、スポーツ紙と呼ぶにふさわしい構成だった。
街中にはパブリックビューイング用の大型スクリーンが設置され、多くの観衆が集まった。
ただし、そこに赤、白、緑のトリコローレがはためくことはなかった。
イタリア人の多くはスペインやノルウェーを応援した。同胞のカルロ・アンチェロッティが率いるブラジルに親しみを覚える人々もいたが、彼らの夏は早い段階で終わりを告げた。
では、アルゼンチンはどうだったのか。
人口約4600万人のうち、イタリアにルーツを持つ人が非常に多いとされる国である。しかし、アルゼンチンに声援を送らないイタリア人もいた。
理由の一つは、「アルゼンチンが優勝すれば、優勝回数が4度となり、イタリアに並ぶ」というものだった。
さらに、それまでワールドカップ連覇を達成していたのは、イタリアとブラジルだけである。
アルゼンチンが今大会を制していれば、史上3か国目の連覇を成し遂げると同時に、21世紀初の連覇国となっていた。
ただし、ディエゴ・マラドーナが神として崇められているナポリだけは、様相が異なった。
街は、“神の母国”であるアルゼンチンを象徴する白と水色の旗で埋め尽くされた。
アルゼンチンへの肩入れで起きた論争

北中米W杯決勝の解説を務めたダニエレ・アダーニ【写真:Getty Images】
アルゼンチンを熱狂的に支持した一人が、フィオレンティーナやインテルでプレーし、今大会で『Rai』の解説陣を務
めた“レーレ”ことダニエレ・アダーニである。
自他ともに認めるリオネル・メッシの熱烈な支持者であり、今大会でもメディア席からメッシに対して絶叫に近い声援を送っていた。
アルゼンチン代表対イングランド代表の一戦で、アディショナルタイムにラウターロ・マルティネスが決勝ゴールを決めると、アダーニは雄叫びを上げた。
その振る舞いは翌日、大きな議論を呼んだ。
「イタリアにはイングランド人もいれば、イングランドを応援する人もいる。公共放送の解説者がアルゼンチンに肩入れしすぎるのはいかがなものか」
そうした批判が集まったのである。
しかし、本人は意に介さなかった。
「私は度を越してはいない。それどころか、“レオ”が本来受けるべき評価には、到底及んでいなかった」
まだまだ足りないと言わんばかりの反応だった。
スペインとの決勝でも、アダーニは『Rai』の解説を担当した。
しかし、愛するアルゼンチンが敗れると、言葉数は明らかに減った。まるで抜け殻のようになり、喪に服しているかの
ようにも映った。
また、イタリアのクラブに所属する選手、あるいは過去に所属していた選手の多くも注目を集めた。
とりわけ、所属クラブのティフォージから強い後押しを受けていた。
その筆頭が、インテルに所属するラウターロだろう。
イングランド戦で決勝ゴールを決めると、イタリアの多くのメディアは、まるで自国の選手が活躍したかのように大き
く取り上げた。
しかし、スペインとの決勝では、コモ1907に所属するニコ・パスとともに出場機会が訪れなかった。
約8万人が詰めかけたメットライフ・スタジアムのピッチに、セリエAでプレーする選手が立つことはなかった。
一方、試合終了後には、かつてユヴェントスやASローマでプレーしたレアンドロ・パレデスの振る舞いが議論を呼び、
大きく報じられた。
アルゼンチンの激しいプレーや勝利への執着は、大会を通じてたびたび論争の対象となった。