
3大会連続予選敗退のイタリア代表【写真:Getty Images】
世界中が熱狂したFIFAワールドカップ2026(北中米W杯)が、スペイン代表の優勝で幕を閉じた。その一方で、4度の優勝を誇るイタリア代表は3大会連続で予選敗退。本大会に出場できない中、イタリアの人々やメディアは39日間に及ぶ世界最大のサッカーイベントをどのように見つめ、報じたのか。現地の放送、新聞、ファンの反応、そしてFIFAを巡る議論から振り返る。(文:佐藤徳和)[2/2ページ]
「赤い世界」スペインを称賛した各紙

スペイン代表【写真:Getty Images】
決勝翌日、イタリアの各スポーツ紙は、スペインの優勝を大きく報じた。
ローマを拠点とする『コッリエーレ・デッロ・スポルト』は、「ゴールド・ジェネレーション(黄金世代)、新しい世界」とのタイトルを打ち出した。
紙面で大きく扱われたのは、ワールドカップを制したスペインだけではない。
同じ7月19日に行われたF1ベルギーGPを制し、今季6勝目を挙げたイタリア人レーシングドライバー、アンドレア・キミ・アントネッリも大々的に取り上げた。
イタリア代表がワールドカップに出場していない中でも、自国の若きスターを前面に押し出し、イタリアの矜持を示す紙面となった。
ユヴェントスとトリノFCを中心に伝える『トゥットスポルト』は、「スペインが世界制覇、正しい結果」との見出しを掲げた。
「アルゼンチンは守りに入り、ラフなプレーに終始した。延長戦を前に10人となり、相手ペナルティーエリアに迫ることはなかった」
「ヨーロッパ王者は今や世界王者にもなり、2010年大会に続く優勝。育成システムの確かさを改めて証明した」
このように評し、スペインが世界の育成をリードする存在であることを称えた。
そして、『ラ・ガッゼッタ』は「赤い世界」との見出しで、スペインの優勝を祝福した。
「最も優れたチームが優勝した」と伝える一方、ここでもアントネッリを取り上げ、「我々はキミとともに勝利を喜び合う」と記した。
スペインは2008年以降、欧州選手権を3度、ワールドカップを2度制している。
UEFAチャンピオンズリーグ(CL)でも、同期間にスペイン勢は9度の優勝を誇る。内訳はレアル・マドリードが6度、バルセロナが3度だ。
時代がスペインにあることを、改めて印象づける結果となった。
スペイン代表対アルゼンチン代表の決勝は、『Rai 1』でもイタリア時間21時から生中継された。
テレビ放送の平均視聴者数は約1246万人。視聴占拠率は67.9%を記録し、延長戦では最高74.9%に達した。
人口約5900万人の国で、イタリア代表が出場していない試合としては、極めて高い関心を集めたことがうかがえる。
決勝は『DAZN』でもインターネット配信されており、実際に試合を見た人の数は、さらに多かったとみられる。
イタリアでも報じられた大会の問題

ドナルド・トランプ大統領とジャンニ・インファンティーノ会長【写真:Getty Images】
今大会では、さまざまな問題が浮き彫りになった。
アメリカ代表FWフォラリン・バログンの出場停止処分を巡る問題、48チーム制への拡大に象徴されるFIFAの商業主義、過密日程と選手の酷使、長距離移動、高額なチケット、気候問題、VAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)の判定を巡る不信感、開催国への配慮と公平性を巡る議論。
枚挙にいとまがないほどの課題が噴出し、それらはイタリアでも詳しく報じられた。
中でも大きな議論を呼んだのが、ドナルド・トランプ政権とFIFA(国際サッカー連盟)の近すぎる関係である。
この問題について、7月19日付の『ラ・ガッゼッタ』では、ディレクターのステーファノ・バリジェッリ記者が厳しい批判を展開した。
「インファンティーノとトランプの関係でも記憶されることになるワールドカップだ」
そのように訴え、FIFA会長とアメリカ合衆国大統領の関係は「一線を越えてしまった」と論じた。
さらに同紙は、FIFAによって決勝当日の取材パスが、当初予定されていた数から半減されたと伝えている。
バリジェッリ記者は、ジャンニ・インファンティーノ会長が裕福なアラブ諸国や、加盟協会数の多いアフリカ諸国との関係を重視する一方、世界のサッカーを長くリードしてきたヨーロッパとの間に距離が生まれていると指摘した。
「選挙でインファンティーノの対立勢力となり得るヨーロッパの影響力を弱めるためだ」
これが、バリジェッリ記者の見方である。
インファンティーノ会長は、イタリア出身の両親を持つスイス人だ。
それだけに、イタリアのスポーツ紙からこうした厳しい批判が出たことは、両者の関係が大きく変化していることを物語っている。
実は『ラ・ガッゼッタ』は、大会開幕時にインファンティーノ会長へのインタビューを掲載していた。
これについても一部の読者から、「『ラ・ガッゼッタ』はFIFAの側に立つのか」と批判を受けていた。
また、トランプ政権でワールドカップを担当するエグゼクティブ・ディレクターへの独占インタビューも掲載していた
が、バリジェッリ記者は「公平性を保つため」と説明している。
その一方で、大会が進むにつれ、FIFAに対する批判的な記事も徐々に増えていった。
権力を持つ組織の問題点を報じ、検証することは、メディアが担うべき重要な役割である。
ところが、『ラ・ガッゼッタ』によると、決勝当日になって取材パスの数を当初予定から半減されたという。
FIFAは、「インファンティーノ会長への批判とは一切関係がない」と説明したとされる。
批判的な報道と取材パス削減に直接的な因果関係があったかは確認できない。
ただし、その時期が重なったことで、報道への圧力ではないかとの疑念を抱かせる結果となったことは否定できない。
4年後、イタリアは戻れるのか

イタリア代表【写真:Getty Images】
熱狂と感動、落胆、そしてFIFAを巡る数々の議論が続いた39日間が終わった。
イタリアでは、多くのクラブがすでにキャンプインし、次期イタリア代表監督を巡る議論も加熱している。
約1か月後には、セリエAがいつものように開幕を迎える。
今回もワールドカップ出場はかなわず、世界から取り残された感のあるイタリア。
それでも、この国にはやはりカルチョが必要なのだと、改めて感じさせる39日間だった。
4年後、イタリアが4大会ぶりにワールドカップの舞台へ戻り、人々がアッズーリの活躍に一喜一憂できることを願うば
かりである。
(文:佐藤徳和)
【著者プロフィール:佐藤徳和】
1998年にローマでの語学留学中に、地元のアマチュアクラブ「ロムーレア」の練習に参加。帰国後、『ポケットプログレッシブ伊和・和伊辞典』(小学館)の制作に参加し、イタリア語学習書などの編集、校正、執筆に携わる。2007年から、フリーランスとして活動し、主にイタリア・サッカー記事のライティングに従事。2014年には、FC東京でイタリア人臨時GKコーチの通訳を務める。IL ROMANISTA、日本特派員。『使えるイタリア語単語3700』(ベレ出版)、『イタリア語基本の500単語』(語研)を共同執筆。日伊協会では、カルチョの記事を読む講座を開講中。X:@noricazuccuru
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