北海道コンサドーレ札幌の川井健太監督【写真:黒川広人】
「自分が正解だとはあまり思っていない」――。北海道コンサドーレ札幌を率いる川井健太監督が紡ぐ言葉は、不思議と耳に残る表現が多い。独特の言い回しの奥には、選手一人ひとりの個性を尊重し、自ら考えてプレーする集団をつくりたいという一貫した哲学が息づいている。本インタビューでは、その言葉の背景にある価値観と、札幌で描くチームづくりの原点に迫った。※全4回。(取材・文:黒川広人)[1/2ページ]
「止まらない」を求めた8カ月。チーム改革への手応え

百年構想リーグでは最終順位8位としたが、EAST-Bでは2位に入るなど一定の成績を残した北海道コンサドーレ札幌【写真:Getty Images】
新シーズンの開幕を目前に控え、北海道コンサドーレ札幌のチームづくりは着実に進んでいる。
「大きなケガ人も出ていないですし、順調に来ていると思います。現段階では手応えはありますね」
そう語る川井健太監督の表情からは、現在のチームに対する確かな手応えがにじんでいた。
実際、キャンプ期間に行われたトレーニングマッチではヴィッセル神戸、名古屋グランパスというJ1クラブとも対戦し、神戸とは1-1で引き分け、名古屋には1-0で勝利している。結果だけでなく、内容からも確かな成果を感じさせる戦いだった。
就任から約8カ月。北海道での暮らしやチームづくりについて、現在の率直な思いを尋ねた。
「本当に充実していますね。大満足です。当初のイメージ通りといいますか、文化的にも気候的にもそうです。人の温かさというか、ファン・サポーターの方々にもよく声をかけていただけて、非常にいいなと思っていますし、そういう意味では本当に満足しています」
だが、その充実した日々も、シーズン開幕前からの積み重ねがあってこそだ。新体制が始動した沖縄キャンプで、川井監督がチーム改革の第一歩として選手たちに繰り返し伝えていた言葉がある。
「止まらない」。
止めてはいけないのは、身体だけではない。思考も動かし続けることだ。
沖縄キャンプでは、短い時間の中で身体と頭を動かし続ける高強度のトレーニングが繰り返された。選手たちからは「過去一キツイ」という声も聞かれたが、その積み重ねは確かな変化となって表れている。
「数値面でも劇的に変わっていますよね。細かい数値もそうですし、そこは本当に一番変化している部分かもしれません。フィジカル面も変わりましたが、メンタル的なところも大きいと思います。まずは動き続ける。頭を働かせ続けなければいけない。
大事なのは、それをやらなければいけない練習環境を僕らがつくるということです。この基準をこなさなければ、ついてこられない。その環境をつくる。そういう意味では、この半年間、キャンプから積み上げてきたものが、非常にうまく成果として表れています」
キャンプから積み重ねてきた成果は、少しずつピッチにも表れ始めている。ここまでの歩みを振り返ると、川井監督は静かにうなずいた。
川井健太監督はどのような視点で選手をチェックしているのか
川井健太監督が北海道コンサドーレ札幌の指揮官に就任して早8か月が経過した【写真:Getty Images】
「最初は、それまでの癖のようなものが残っているので、それを取り除くには時間がかかるだろうと思っていました。ただ、そこをクリアできれば、良いものを持っている選手は多かったので、ある程度はいける確率が高いだろうと。総じて、想定内ですね」
一方で、チームの土台づくりと並行して戦力の整備も進めてきた。すでに札幌に欠かせない存在となっている田川知樹をはじめ、今オフに加入した選手の中にも、川井監督の要望を受けて獲得した選手も少なくない。
では、川井監督は普段、どのような視点で選手をチェックしているのだろうか。
「暇さえあれば見るというわけではなく、目的があるときに見ますね。中でも、Jリーグの試合は比較的よく見ています。『この選手は良いな』という目線で、獲得の可能性も含めて見ることもあります。逆に、海外の試合はほとんど見ないですね。確率論ではありますけど、獲得の可能性がほぼゼロなこともあります。国内の試合をよく見ますね」
選手を見る際に真っ先に確認するポイントがあるという。
「まずはポジショニングを取れる選手です。その次が判断。僕が思っている正解に似ている、近い選手ですね。そこから技術になります」
ポジショニング、判断、そして技術。川井監督が選手を見る順番は一貫している。だからこそ、頭を使ってプレーしている選手は、自然と目に留まる。
さらに、もう一つ重視しているポイントがある。
「その後に見るのが退場です。獲得しようとしている選手が、過去3年間でレッドカードを3枚もらっていたら、少し考えます。そういうところもオプションとして見ますね。そこでだいたいキャラクターも見えてきます」
川井監督にとって、退場は単なる個人のミスではない。
「退場は、本当にみんなに迷惑をかけるんですよ」
その言葉には、強い実感がこもっていた。
「退場したら、自分はプレーしなくていいんです。走らなくていいし、しんどいこともしなくていい。でも、残りの10人がしんどいことをやらなければいけない。
自分がしんどいことをやれるのであれば、退場してもいいですけど、そうではない。1週間のトレーニングも台無しになりますし、それは違うんじゃないかという考えがあります。そもそも、勝率も大きく悪くなりますよね。なので、そこは大事にしています」
激しさそのものを否定しているわけではない。むしろ、闘う姿勢は必要だ。ただ、無謀なプレーと勇敢なプレーは異なる。
川井健太監督の“不思議と耳に残る”言葉の源泉。

試合後の会見に臨む北海道コンサドーレ札幌の川井健太監督【写真:Getty Images】
「あまり言い過ぎると、激しさもなくなってしまいます。でも、今は紅白戦でも、汚いプレーがなくなったというか。激しいプレーはありますけど、そこは非常に良くなったと思います」
フットボールのことは常に頭の片隅にあるが、指揮官なりのリフレッシュ方法もあるという。
「散歩、サウナ、あとはジムにもよく行きますね。今だったら大通公園でビヤガーデンをやっているので、とりあえず近くを一往復しました(笑)。あの雰囲気が何かいいなと思って。サウナも定山渓にある場所を気に入っています」
川井監督の言葉は、不思議と耳に残る表現が多い。その感性や言葉選びの源泉は、なんなのか。以前から気になっていた。
「ライブにもよく行きますね。札幌でも2回行きましたよ。好きなアーティストもいますし、幅広く聴くんです。この前は羊文学を見に行きましたね。あとは小山田壮平さん。マイナーな方も見に行くんです(笑)。本当に好きですね」
人前に立ち、人の心を動かす。その姿に、川井監督はフットボールとの共通点を見いだしている。
「インプットしようと思って、そういうことをしているわけではないんです。残るものは勝手に残るので。ライブも、あれは勝負なわけですよ。僕らは来ていただいたファン・サポーターを喜ばせる。彼らも来てくれた人を喜ばせる。そういうところでは、毎回圧倒的な敗北を味わって帰るんですけど(笑)。
本もそうです。残らないものは残らないし、『なるほどな』と思ったものは残る。でも、何かを見つけようとして、それを手に取ったり、どこかへ行くことはないです。ただ、言葉は唯一のアウトプットの手段だと思っています。グラウンドの中では、それ以外に表現はないので。そういう意味でもすごく大切にしていますね」
では、川井監督自身の根底にある言葉は何なのか。そう尋ねると、迷うことなく一つの言葉が返ってきた。