
柏レイソル所属MF熊坂光希【写真:Getty Images】
昨年、日本代表に初選出されながら、代表活動中に右膝前十字靱帯を断裂した柏レイソルの熊坂光希が、約1年の長期離脱を経て戻ってきた。その間、柏の中盤では中川敦瑛がボランチへとコンバートされ、台頭。8月14日の東京ヴェルディ戦では2人がダブルボランチを組み、それぞれの特徴を生かしながら中盤を支えた。熊坂が後方を支え、中川が前へ出る――。互いを認め合いながら競い合う2人の言葉と、東京V戦で見せたプレーから、柏の中盤に生まれた新たな関係、そして相手の守り方に応じて変化した攻撃の形を探る。(取材・文:高橋大地)[2/3ページ]
「無理に差し込みすぎない」。ローブロックをどう動かすか

柏レイソルに移籍後、初ゴールを記録した遠藤渓太【写真:Getty Images】
そんな2人が共通して口にするのが、攻撃を急ぎすぎないことだ。
柏にとって継続的なテーマの一つとなるのが、低い位置にブロックを敷く相手をどう攻略するか。
熊坂は、ちばぎんカップでの戦いを振り返りながら課題を口にしている。
「クロスとかをちょっと早く上げすぎたりとか、攻撃が単純になっちゃったので、焦れずにボールを散らしながらというのをもっとやるべきかなと思います」
東京V戦で中川が意識していたことも、その考えと重なる。
「やっぱり無理に差し込みすぎないようにすることだったり、ミドルシュートは常に狙っていますね。無理に差し込まないというのは、今日は特に自分が意識したところです」
熊坂の「焦れずにボールを散らす」と、中川の「無理に差し込みすぎない」。
表現こそ違うが、根底にある考え方は近い。
中央を固める相手に対して縦へのパスを急ぎ続ければ、守備側も狙いを絞りやすい。そこで一度ボールを動かし、相手のスライドを促したうえで、次に生まれるスペースを狙う。
東京V戦では、その意識と重なるプレーが見られた。
相手が低い位置にブロックを敷いた局面では、中央へ差し込むことだけに固執せず、ペナルティーエリア角付近までボールを運んでから逆サイドへクロスを送り込む。一方へ相手を寄せ、その逆側を使うことで、守備ブロックを横へ動かしながら侵入口を探していた。
そして、もう一つの選択肢がミドルシュートだ。
ちばぎんカップ後には、遠藤渓太もこんな課題を口にしていた。
「今日で言えば、ボランチの選手たちがゴール前でフリーでボールを受けたり、前を向いたりするプレーを見せることで相手も前に出てくる。そこで、シュートを打つことも必要だったと思います。自分自身もシュートを打てていないので、あまり人のことは言えないですけどね」
守備網の中へパスを通すことだけが、引いた相手を崩す方法ではない。
ゴール前で前を向いた選手が外からシュートを狙えば、守備側もそこへ対応する必要が生まれる。選手を前へ引き出せれば、その背後や脇に別のスペースが生まれる可能性もある。
さらに重要なのが、攻撃を一度で終わらせないことだ。
クロスやミドルを跳ね返されても、熊坂と中川がセカンドボールを回収する。再びボールを動かして相手を押し込み、もう一度守備ブロックを揺さぶる。
「散らす」「無理に差し込まない」という2人の言葉と、攻撃を継続するためのセカンドボール回収。その両方が、引いた相手を焦れずに動かし続けるためには欠かせない。
ハイプレスを外せば一気に前へ。“擬似カウンター”が生んだ同点弾

東京ヴェルディ戦、随所で光るプレーを見せた原田亘【写真:Getty Images】
一方、この日の東京Vは90分間ずっと自陣に構えていたわけではない。
低い位置にブロックを作る一方、前から人数をかけて柏のビルドアップへ圧力をかける局面もあった。
そこで生まれたのが、ローブロックに対する攻撃とは異なる形だ。
象徴的だったのが、前半10分の同点ゴールである。
東京Vが前から人数をかけて圧力を強める中、まず熊坂が自陣ペナルティーエリア付近でボールを受け、相手を引きつける。そこから古賀太陽、小泉佳穂、久保藤次郎を経由し、このとき中盤の位置を取っていた右CBの原田亘へボールが渡った。
すると、低い位置から前方へ駆け上がった中川が原田とのパス交換でプレスラインを突破。東京Vが前へ出たことで生まれたスペースへ抜け出すと、そのまま自陣から50m近くボールを運び、相手ゴール前まで一気に進出した。
その流れから生まれたこぼれ球を遠藤が拾い、ペナルティーエリア外からゴールへ突き刺した。
東京Vのハイプレスを自陣で受け、その圧力を回避した瞬間に前方へ加速する。通常のカウンターとは状況が異なるが、東京Vが柏陣内まで人数をかけたことで前方に生まれたスペースを利用する、いわゆる“擬似カウンター”と呼べる攻撃だった。
28分にも柏は自陣で東京Vのプレスをロングボールで回避すると、これまた前線に残っていた原田のスルーパスから久保藤次郎が背後へ抜け出し、シュートまで持ち込んだ。
GKのファインセーブに阻まれ、得点とはならなかったが、同点弾に続き、ハイプレスを越えた直後に大きく前進して相手ゴールへ迫った場面だった。
ただし、同点ゴールがチームとしてあらかじめ用意された一つの攻略パターンだったわけではない。
中川に、原田との連係から抜け出した場面について尋ねると「結構前から来ていたので、3人目のところでうまく、(原田)亘くんも自分のことを見てくれていましたし、チームとしてそういった狙いがあったというよりかは、たぶん個々の判断だったと思うので、そこがうまく組み合わさったという感じかなと思います」と、説明している。
相手チームが前へ出てくれば、その背後にはスペースが生まれる。そして中川には、持ち運びでチーム全体を前進させる力がある。
熊坂が中川について語った「自陣の深いところから相手陣地まで一人で運べる」「攻撃に厚みを出せる」という評価は、こうした場面にも表れていた。
水戸戦からの変化。待った先に生まれた「ライン間」

チームの3点目をあげた久保藤次郎【写真:Getty Images】
東京V戦では、試合の時間経過によって攻撃する場所も変わっていった。
中川自身、この日の攻撃には水戸戦からの改善を感じている。
「それぞれがやろうとしたことをちゃんとできたり、自分のポジショニングだったり、前を動かすことっていうのは、水戸戦に比べて今日はできたと思うので、そこは良くなってきているのかなと思います」
そして、時間が進むにつれて東京Vにも変化が生まれた。
熊坂は、ちばぎんカップ後に「1試合を通してゲームをコントロールすることが大事」と話していた。
前半でリードできていなくても焦らない。特に夏場の試合では、時間の経過とともに相手の運動量が落ち、スペースが生まれることもある。後半、疲弊した相手の隙を突くプレーは2025シーズンの柏らしさが戻ってきたと言える。
「そういう一瞬の隙を逃さないように、常に狙い続けるというのが大事かなと思います」
東京V戦では、その言葉と重なる展開が後半に訪れた。
中川はこう振り返る。
「(後半)もう相手も結構疲れていて、ライン間は空いてくる時間帯だったので、実際にそこは自分としても使いたかったですし、途中から入った選手たちというのは、そういった特徴がある選手なので、そこをうまく使って。特に後半の2点とも、そういったライン間を使えていたので、レイソルの良さだったり、個人個人の良さが出たのかなと思います」
相手の運動量が落ち、中盤と最終ラインの間隔が広がっていく。そのスペースを柏は逃さなかった。
3点目は、その言葉を象徴するプレーだった。
中川がライン間へ縦パスを差し込むと、そこから瀬川祐輔、弓場堅真とつなぎ、最後は久保藤次郎がゴールへと結びつけた。
10分には、自ら低い位置から駆け上がってプレスラインを越えた中川が、今度はパスによって前方のスペースを使う。
自ら前へ出ることもできれば、縦パスによって味方を前進させることもできる。そうした中川の攻撃性能を引き出すうえでも、後方を支える熊坂の存在は大きい。
ローブロック、ハイプレス、そして時間の経過によって広がったライン間。東京Vの守備の状態が変わる中で、一つの攻撃に固執しなかった。
そこには、水戸戦との比較で中川が語った「良くなってきている」という手応えも表れていた。