日本代表はキリンカップサッカー2026でエクアドル代表と対戦し、0-0からのPK戦を制した。FIFAワールドカップ2026(北中米W杯)でも強烈なプレッシングを見せた南米の強豪を相手に、日本は序盤からビルドアップで苦戦。その中で活路となったのが、GK鈴木彩艶のロングキックだった。この武器を最大限に生かすために必要なものは何か。そこから浮かび上がるのは、意外な一人のストライカーである。(文:西部謙司)
さすがのクオリティーだったエクアドル
エクアドル代表はFIFAワールドカップ2026(北中米W杯)南米予選を2位で通過。本大会はラウンド32でメキシコ代表に敗れたが、グループステージではドイツ代表を破っている。プレッシングの強度は大会屈指だった。
森保一監督が試合後に「非常に良い相手」を何度も言っていたように、力関係は同等。試合結果も前回対戦に続く0-0だった。(PK戦で日本が決勝進出)
エクアドルの特徴は機能的なプレッシング、球際の強さである。この点は日本とよく似た戦術のチームといえる。
システムは4-4-2ベースながら、守備では右サイドハーフのジョン・メルカドがディフェンスラインまで下がって5バック化する。後半途中からメルカドを高い位置へ上げ、4バックにして攻撃へシフトこともあり、プレッシングの威力は前半ほどではなくなったが、前半の日本はしばらく前進できず、20分間はワンサイドゲームに近いほどの苦戦を強いられていた。
目下の日本の課題であるビルドアップ能力を問うには絶好の相手だったわけだ。
そこで示した回答はGK鈴木彩艶のキック力を活かすロングボールによるプレス回避だった。
アジアカップでは大迫勇也が必要になる?
相手がマンツーマンで抑え込んできた場合、前線へロングボールを蹴るのはビルドアップの定石である。蹴るとつなぐはセットなのだ。
破格のキック力を有する鈴木のフィードで一気に最前線へボールを届け、そこでの1対1に勝てばあとはGKだけ。自陣でボールを奪われるリスクも避けられる。
しかし、ロングボールは鈴木のキック精度をもってしてもボールを失う可能性はそれなりに高く、これだけでは試合の主導権を握るには十分ではない。
谷村海那は最初こそ見事なコントロールで収めたものの、その後は失うケースが続いた。谷村は総合力の高いFWだが、鈴木のロングキックを最大限活かしたいなら、上田綺世の他に適任者を探すなら大迫勇也だろう。
4年後はともかく、AFCアジアカップ2027では大きな補強になる。カタールW杯を辞退したいきさつがあって招集が難しいのかもしれないが、戦術的には最適任者だと思う。
ウルグアイ、ベネズエラ戦ともに自陣でのつなぎを奪われ決定機を作られた。日本のDF陣はロングボールの飛距離、精度があるので、鈴木も合わせてつなぐとみせかけてのロングキックは弱点を隠し強力な武器になる可能性があるが、そのためには受け手を用意する必要があるわけだ。
確実に南米を下すには至らず
25分あたりからようやく日本が敵陣へ押し込む展開を作れた。佐野海舟を中心にボールを奪っての早い攻め込みが増える。日本のプレッシングもエクアドルに負けない威力があり、敵陣でプレーできれば形勢は逆転できる。
ただし、プレスを外すコンビネーションや個人技はエクアドルの方がやや上。日本も久保建英が巧みなコントロールを見せていたが、全体的にプレッシャーに怯まずにつなぐ力はエクアドルに分があり、ロングボールを蹴った先の競走でもニルソン・アングロがイーブンの状況ならモノにできる走力とコンタクトの技術に優れていて、似た者同士のゲームでやや優勢ではあった。
とはいえ、日本も右サイドの久保、堂安律に手慣れたコンビネーションがあり、左は中村敬斗が個人技でこじ開け、互いに刃を突きつけ合うような緊張感のある展開だった。
68分に双方3人を交代。エクアドルはトップ下のジェレミー・サミルエント、日本は伊東純也を投入してともに得点を狙う。エクアドルが5バック化をやめたことで、攻め合いの流れになった。
86分には塩貝健人を投入。鎌田大地のアンカー1人を残しての2トップ、2シャドーの最大火力でラストスパート。しかし、これでかえってビルドアップ時のバランスが悪くなり、孤立した伊藤洋輝がボールを奪われて90分にあわや失点のピンチがあった。
結局双方ゴールはなく、PK戦で全員が決めた日本が勝利した。
「主観ではありますが、W杯で勝っていくには南米勢に確実に勝利することがポイント」(森保監督)
エクアドルとは総合的にほぼ互角の好試合だった。つまり「確実に勝利する」には至らなかった。
確実に勝利するには、ロングボールだけでなくショートパスを駆使して押し込む流れにすること、そこで引かれた時に着実にチャンスを作り得点すること。
現在の日本にそこまでの力はなく、その日本をエクアドルも上回ることができず、ともにラウンド32敗退だったW杯の結果がそのまま表れていたといえるかもしれない。
(文:西部謙司)
【著者プロフィール:西部謙司】
1962年9月27日生まれ、東京都出身。学研『ストライカー』の編集記者を経て、02年からフリーランスとして活動。95年から98年までパリに在住し、ヨーロッパサッカーを中心に取材。現在は千葉市に住み、ジェフ千葉のファンを自認し、WEBスポーツナビゲションでは「犬の生活」を連載中。サッカーダイジェスト、フットボリスタなどにコラムを執筆中。『ちょいテク 超一流プレーヤーから学ぶちょっとスペシャルなワザ』監修(カンゼン)、「サッカー右翼サッカー左翼」(カンゼン)、近著に『戦術リストランテⅣ』(ソル・メディア)、「ゴールへのルート」(Gakken) 、共著の『サッカー日本代表の戦術が誰でも簡単に分かるようになる本』(マイナビ)、『FCバルセロナ』(ちくま新書)がある。
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【了】




