
ドルトムントを後押しするサポーター【写真:Getty Images】
マンチェスター・シティの財務規則違反を巡る問題は、クラブに入る資金の実態を誰が、どのように確かめるのかという問いを突きつけている。その視点から注目したいのが、ブンデスリーガ唯一の上場クラブ、ボルシア・ドルトムントだ。外部から資本を受け入れながら、経営の主導権を会員組織に残し、財務情報を公開する。その仕組みと限界から、クラブ経営の透明性を考える。(文:川﨑ゆうき)[1/2ページ]
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シティの問題から考える、資金の流れと経営の監視

マンチェスター・シティのフェラン・ソリアーノCEO【写真:Getty Images】
2026年9月29日、プレミアリーグの独立委員会がマンチェスター・シティによる財務規則違反などを認定したと発表した。シティ側は不正を否定し、10月2日に控訴したことを公表。処分については、別途審理される。
独立委員会の裁定によると、シティは2009/10年度から2017/18年度にかけて、スポンサー収入として計上された約9億4994万ポンド(約1,899億8,800万円)のうち、約8億3069万ポンド(約1,661億3,800万円)が実際にはオーナー企業ADUGから拠出された資金だったと認定された。
さらに別の取引も含め、委員会は収入の過大計上と費用の過少計上が9億ポンド(約1,800億円)を超えたとしている。
クラブ経営を検証するには、収入の額だけでなく、資金提供者との関係や取引の実態まで見る必要がある。
まだ結末は分からないが、近年の欧州サッカーで突出した結果を残してきたクラブの財務騒動は、広く衝撃を与えている。外部の資金を受け入れるクラブに、どのような仕組みが求められるのか。「誰が経営を決めるのか」と「その経営を外から検証できるか」という2つの視点で参考になるのが、ドルトムントだ。
何度も発動する“不正防止装置”

ドルトムントの本拠地ジグナル・イドゥナ・パルク【写真:Getty Images】
ドルトムントは2000年10月、ドイツのブンデスリーガ所属クラブとして初めて株式を上場した。現在も同リーグ唯一の上場クラブである。
特徴は、株式の保有比率が、そのまま経営の支配権に結びつかない点にある。会員組織の上場会社に対する持ち株比率は5.90%にとどまる。一方で、上場会社の業務執行を担う会社は会員組織が全額保有しており、株式を買い集めるだけでは経営を掌握できない構造になっている(参考:ドルトムント公式IRポータル)。
これは、クラブの支配権を原則として会員側に残す「50+1ルール」に対応した仕組みだ。ただし、外部からの資金投入を禁じるものではない。ドルトムントも企業や個人投資家から資本を受け入れている。資金を集めることと、経営の主導権を渡すことを切り分けているのである。
重要なのは、経営権の所在が明確で、財務を外部から検証するための情報が継続的に示される点だ。
シティを含む他の欧州クラブも、収入や費用の内訳を示した財務諸表を公開している。そのうえでドルトムントには、上場企業として四半期情報の開示など、資本市場に対する追加的な説明義務がある。透明性と健全性を保つための装置が、比較的多く発動するということだ。
課題は競争力の維持

ドルトムントのCEOカルステン・クラマー氏【写真:Getty Images】
もっとも、上場すればすべてが解決するわけではない。会員主体の経営が清廉潔白でも、業績低下の懸念は常にある。
ドルトムント自身、上場後の2005年に選手への高額な支出とスタジアム増築によって財務負担が膨らんだため破綻寸前まで追い込まれた。その経験を経て、競技上の成功を追求する際にも、財務の安定を重視する姿勢を打ち出してきた。
その経営を支えてきた柱のひとつが、選手の育成と移籍だ。2017/18年度には、ウスマン・デンベレやピエール=エメリク・オーバメヤンの売却などによって、移籍収入が約2億2,270万(約396億円)ユーロに達した。
ファンとの関係にも配慮している。2026/27シーズンのチケット価格では、一部の座席を値上げする一方、立ち見席などの価格は据え置いた。収益拡大と観戦のしやすさをどう両立するかも、経営上の重要なテーマとなっている。
2025/26年度末の自己資本比率は51.5%だったが、収益は競技成績に左右される。同年度は売上4億6,050万ユーロ(約828.9億円)に対して2,170万ユーロ(約39億円)の赤字だった(2025/2026年度 ドルトムント暫定決算のアドホック開示)。
減収には、UEFAチャンピオンズリーグ(CL)で前年度ほど勝ち進めなかったことや、クラブワールドカップ収入の計上時期の違いが影響した。財務基盤があっても、毎年の黒字が保証されるわけではない。
選手の移籍で収益を得るモデルにも、戦力を維持する難しさが伴う。今年8月の決算記者会見にて、クラブの最高経営責任者であるカルステン・クラマー氏は移籍収入への依存を減らす方向性を示した。