イタリアの名門ラツィオで、一人の若者がトップチームデビューを果たした。23歳のロマーノ・フロリアーニ・ムッソリーニ。かつてイタリアに独裁体制を築いたベニート・ムッソリーニの曾孫である。しかし、そのユニフォームの背中に記されているのは「MUSSOLINI」ではなく「ROMANO」。「僕の姓は、僕自身よりも周りの人たちを悩ませてきた」と語る青年は、サッカー選手としての評価を望む一方、歴史的な重みを持つ姓によって注目を集め続けている。極右的な思想を持つ一部サポーターの存在でも知られるラツィオで、彼はどのような現実と向き合っているのか。(文:佐藤徳和)[2/2ページ]
ラツィオのサポーターは他クラブに比べ…
SSラツィオのサポーター、とりわけウルトラスは、しばしば右派あるいは極右的思想を持っているとされている。
対するASローマは、左派的な思想を持つサポーターが多いとされるが、ジャッロロッソに極右的な思想を持つサポーターがいないわけではない。
9月5日にスタディオ・オリンピコで行われたASローマ対アタランタの試合では、ファシズムを連想させる行為で16人のASローマサポーターに処分が科されることになった。
クルヴァ・スッドゥ(南側ゴール裏席)で彼らは、ナチスのシャツを身にまとい、ローマ式敬礼を行い、ファシストのコールを連呼するなど愚行を繰り返した。
マンチーノ法(人種、民族、宗教などを理由とする差別や暴力、憎悪の扇動を処罰する法律)に抵触するとされ、16人が告発されている。
今では、どのクラブにも、このような極右的思想を持つグループが見受けられ、一概に「このクラブは左寄りだ、右寄りだ」と明言することはできなくなってきている。ただ、SSラツィオに限っていえば、右寄りの思想を持つサポーターが多いと言われている。
もちろん、SSラツィオのサポーターの中にも、反ファシズムを掲げるグループもいる。しかし、人種差別やファシスト的な行為が見られ、反ユダヤ的横断幕が掲げられるようなことが、ほかのクラブと比較して多いこともまた事実である。
このようなクラブで、ファシズムの生みの親であるムッソリーニの曾孫、フロリアーニを“神格化”するような人物やグループが出てくる可能性は、否定できないだろう。
そうしたクラブでプレーするフロリアーニは、ムッソリーニの曾孫ということもあり、一層の注目を集めることになった。
「話題にならないほどいいと思っている」と語る本人の意思とは裏腹に、活躍すればするほど、何度も“姓”が脚光を浴びることは避けられないだろう。
だが、それは、ムッソリーニの名を受け継ぐ者にとっての宿命だろう。フロリアーニはこれからも十字架を背負ってプレーしていかなければならないのかもしれない。
(文:佐藤徳和)
【著者プロフィール:佐藤徳和】
1998年にローマでの語学留学中に、地元のアマチュアクラブ「ロムーレア」の練習に参加。帰国後、『ポケットプログレッシブ伊和・和伊辞典』(小学館)の制作に参加し、イタリア語学習書などの編集、校正、執筆に携わる。2007年から、フリーランスとして活動し、主にイタリア・サッカー記事のライティングに従事。2014年には、FC東京でイタリア人臨時GKコーチの通訳を務める。IL ROMANISTA、日本特派員。『使えるイタリア語単語3700』(ベレ出版)、『イタリア語基本の500単語』(語研)を共同執筆。日伊協会では、カルチョの記事を読む講座を開講中。X:@noricazuccuru
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