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コラム 2026.10.16 10:00

なぜブレントフォードは強くなり続けるのか。監督交代や主力流出にも揺らがない独自のフィロソフィー【プレミアリーグを読む】

ブレントフォード
開幕6試合無敗のブレントフォード【写真:Getty Images】



 プレミアリーグ開幕から6試合無敗と、好調を維持するブレントフォード。その強さを支えているのは、ピッチ上の戦術だけではない。なぜ彼らは主力の流出や監督交代を乗り越え、競争力を維持できるのか。独自のクラブ哲学と、その強さを生み出す仕組みに迫る。(文:安洋一郎)[1/2ページ]

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プレミアリーグ6試合無敗と好調のブレントフォード

ブレントフォードのキース・アンドリュース監督と選手たち
ブレントフォードのキース・アンドリュース監督と選手たち【写真:Getty Images】


「我々はチームとして、この道のりを歩み、新たな章を共に進む中で、さまざまなスタイルでプレーできることを示してきたと思う。“予測不能”であることこそ、自分たちの強みの一つです」

 ブレントフォードのキース・アンドリュース監督は、トッテナム・ホットスパーとの開幕戦を前に、チームの現状をこのように語った。

 指揮官が口にした「予測不能」という言葉は、今季のチームを象徴するキーワードだ。プレミアリーグ開幕6試合で12ゴールを記録するなど、「得点力」と「多彩な攻撃パターン」は、彼らの明確な強みとなっている。

 トーマス・フランク前監督時代から定評のある攻撃の一つが、10年以上前から専門コーチを配置して磨き上げてきた多彩なセットプレーだ。さらに、前線のスピードを生かしたカウンターや、相手の前進を制限する強度の高いハイプレスも健在である。

 そのうえで、ダイレクトパスやサイドチェンジを織り交ぜたGKからのビルドアップに加え、高い最終ラインを敷く相手にはシンプルなロングボールで前進を図るなど、相手の守備陣形に応じてビルドアップの方法も使い分けている。

 サイド攻撃にも工夫が見られる。跳躍力に優れた左ウイングのケビン・シャーデがボックス内に進入することで、クロスに対する高さを確保。さらに、こぼれ球を狙う3列目の選手たちも、相手のクリアを予測してポジションを取り、セカンドボールの回収を狙っている。攻撃の各局面で意図が明確に表れているのだ。

 相手の守備陣形に応じて攻撃の手段を使い分けられること。それこそが、アンドリュース監督の語る『予測不能』という強みの正体だ。

 一方、守備では、前線から相手選手を1対1で捕まえにいく場面が多く、マークを外されると後手に回りやすい。それでも、ゴール前では体を投げ出してシュートコースを塞ぐ粘り強いブロックが健在だ。GKクィービーン・ケレハーも高いパフォーマンスを維持しており、勝ち点獲得に直結するビッグセーブを何度も披露している。

 こうした柔軟な戦い方が功を奏し、ブレントフォードは開幕6試合を2勝4分けで終え、無敗をキープしている。全試合で先制している一方、リードを守り切れない試合もあり、試合の締めくくり方には課題が残る。それでも、クラブ史上初の欧州カップ戦出場権獲得に向け、理想的なスタートを切ったことは間違いない。

 ただ、1年前のブレントフォードを振り返ると、チームには大きな懸念があった。監督やコーチングスタッフに加え、ブライアン・エンベウモとヨアン・ウィサという2人のエース、主将のクリスティアン・ノアゴール、正GKのマルク・フレッケンと、主力選手が相次いで他クラブへ移籍。戦力の低下は避けられないと見られていたのだ。

 これほどの危機に直面しながら、なぜブレントフォードは欧州カップ戦出場権を狙える位置につけているのだろうか。

クラブの揺るぎないフィロソフィーとリクルート

ブレントフォードのプレミアリーグ昇格と定着に貢献したアイバン・トニーとブライアン・エンベウモ
ブレントフォードのプレミアリーグ昇格と定着に貢献したアイバン・トニーとブライアン・エンベウモ
【写真:Getty Images】


 ブレントフォードの強さは、特定の選手や監督に依存せず、戦力を入れ替えながら競争力を維持できる仕組みにある。

 実際に昨夏にはチームの核となる人材を失いながらも、戦力の再構築を進め、今季は開幕から好調なスタートを切っている。その背景には、クラブの揺るぎない「フィロソフィー(哲学)」が存在している。

 その姿勢は、先述したトッテナムとの開幕戦を前にした会見でも、アンドリュース監督の言葉からうかがえる。

「このサッカークラブには、トップから末端に至るまで信頼が浸透しています。そんな環境にいられるのは素晴らしいことです」

 このフィロソフィーは、ブレントフォードが現在の地位を築くまでの歩みにも表れている。

 ブレントフォードは、2012年にスポーツベッティング業界で成功を収めたマシュー・ベナム氏に買収されて以降、データ活用を軸にクラブ運営を進化させてきた。データを重視したスカウティングを推進し、10年以上前からセットプレー専門コーチを配置するなど、細部に至るまでパフォーマンスの向上を追求。さまざまな要素を数値化し、選手の評価や補強に生かす仕組みを構築してきた。

 買収当時、クラブはイングランド3部に相当するリーグ1に所属していたが、2013/14シーズンには21年ぶりにチャンピオンシップ(イングランド2部相当)への昇格を果たした。2014/15シーズン以降、下部リーグなどから有望な選手を獲得し、価値を高めて売却益を次の補強に生かすサイクルが形作られていく。

 2014年夏に下部リーグから格安で獲得したアンドレ・グレイやスコット・ホーガンも数年で獲得時の10〜20倍に相当する移籍金で売却。ポテンシャルを秘める選手の価値を高め、その利益を次の補強に投じるサイクルを確立していった。

 こうした「育てて売る」サイクルを回し続けることで、クラブは資金を蓄え、戦力の強化へとつなげてきた。その成果は、クラブ史上初のプレミアリーグ昇格を成し遂げた2020/21シーズンの強力な前線にも表れている。

 エンベウモはフランス2部相当のリーグ・ドゥに所属していたトロワから、アイバン・トニーはイングランド3部相当のピーターバラから獲得された。また、サイード・ベンラーマは、ニースからのローン移籍先だったフランス2部相当のシャトールーでの活躍が評価され、ブレントフォードに加入している。

 プレミアリーグ昇格を果たした現在、選手獲得に投じる資金は増加している。それでも、若い選手を積極的に起用し、成長を促すというチームづくりの根幹は変わっていない。

 オーナー自身の純資産はプレミアリーグで最も少ない(推定200万ポンド〜250万ポンド)部類に入るとされながらも、3部時代から積み重ねてきた取り組みが、今のブレントフォードを支えているのだ。

なぜブレントフォードは監督交代を繰り返さないのか

ブレントフォードのキース・アンドリュース監督
ブレントフォードのキース・アンドリュース監督【写真:Getty Images】


 ブレントフォードは、選手のリクルートだけでなく、監督人事にも一貫性がある。

 現オーナー体制が始まった2012/13シーズン以降、成績不振を理由に監督を解任したのは、マリヌス・ダイクハイゼン(2015年6月~9月)の一度だけだ。

 2015年2月からシーズン終了まで指揮を執ったマーク・ウォーバートンも、データ主導型のクラブ運営方針との不一致から契約を更新せず、退任した。

 しかし、それ以外の監督は、暫定体制を除いて長期政権を築いている。

 直近10年間でチームを率いたのは、ディーン・スミス(2015年12月~2018年10月)、トーマス・フランク(2018年10月~2025年6月)、キース・アンドリュース(2025年7月~)の3名だ。スミスはアストン・ヴィラ、フランクはトッテナムに引き抜かれる形で退任しており、いずれもクラブが自ら監督交代に踏み切ったわけではない。

 フランク体制で迎えた2023/24シーズン、ブレントフォードは負傷者が相次ぎ、本格的に残留争いに巻き込まれた。それでも、クラブは監督を解任しなかった。

 多くのクラブでは、降格の危機に瀕すると、残留を最優先に監督交代へ踏み切ることもある。しかし、ブレントフォードは「その場しのぎ」の人事を行わない。

 中長期的なビジョンに合致する監督が指揮を執ることを重視し、目先の目標を達成するためだけに指揮官を次々と交代させることはないのだ。

 さらに興味深いのは、監督交代が必要になった際、いずれも内部昇格によって後任を選んできた点だ。

 フランクは2016年12月からスミスのアシスタントを務め、アンドリュースも2024年7月からフランクの下でセットプレーコーチを務めていた。

 監督交代を経てもクラブの方針が引き継がれる仕組みが、継続的な競争力を支えているのだ。

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