『サッカー「BoS理論」 ボールを中心に考え、ゴールを奪う方法』の続編として、ドイツサッカーを知り尽くす筆者が「BoS理論」に基づいてサッカーをアップデートしていく本連載。今回は、ゴールへの最短ルートとなる中央攻撃と、縦への選択肢を増やす身体の向きについて解説する。6バックを敷いたRBライプツィヒを鮮やかに攻略したバイエルン・ミュンヘンのゴールには、破壊的な攻撃を生み出すための原則が凝縮されていた。(文:河岸貴)
中央攻撃のすさまじさが目立つバイエルン・ミュンヘン
3 中央を狙う
すでに攻撃の優先順位で述べてきましたが、ゴールが立っている場所から考えると、中央から攻撃するルートがゴールへ最速かつ直線的なルートです。いつでも(ゴールキックからでもビルドアップでもアタッキングサードでも)出来る限り中央攻撃を心がけ、外より中を優先します。
中央ではボール保持者は360度プレーを展開できます。もし、相手からのプレッシャーがないのに、外にプレーを展開してしまえば、プレースペースが自動的に制限されてしまいます。
そして、最終的にはゴールから離れた場所で何回か細かいパスを交換し、DFラインを経由してプレーをやり直すことがほとんどでしょう。
中央を狙わず、サイド、サイドと意識したプレーでは、相手はさほど中央を固める必要はなく、展開されるサイドに問題なくスライドできます。サイドラインとともにボール保持者を追い詰めることは比較的難しくはないでしょう。
ゴールチャンスが少ないゲームでは、サイドラインにゴールが置かれているような、サイドにボールがいってはプレーをやり直し、一向にゴールに向かわない展開が多いと思います。中央を狙うことで、相手チームは中を固め、ハーフレーンやサイドレーンが空きます。そこをアタッキングサードで利用します。
中央攻撃のすさまじさが特に際立つ2025/26シーズンのバイエルン・ミュンヘンの好例を紹介します。
ドイツ・ブンデスリーガの開幕戦、バイエルン対RBライプツィヒの2点目です。バイエルンのフォーメーションは一応[1-4-2-3-1]となっていますが、ボール保持時では各ポジションが非常にフレキシブルです。押し込まれたライプツィヒは6バック。それでもバイエルンは中央を攻めます。
左CBヨナタン・ターが左WGルイス・ディアスに縦パスを送ります。バウンドの質が決してよくないパスを狭いスペースで受けたディアスは慌てず冷静に2タッチで垂直に短くVOヨシュア・キミッヒに落とします。
その丁寧な落としをキミッヒはダイレクトでCFハリー・ケインにパス。この一連の流れは「Steil-Klatschen-Spiel」(シュタイル=クラッチェン=シュピール)で、中央攻撃には欠くことができないプレーで非常に有用です(図7)。
中央を狙う意味は…
ダイレクトパスを受けたケインも非常に狭いスペースながら1タッチでゴール方向に身体をオープンにします。
それによってシュートブロック態勢に入ったDFを尻目に、中央に構えていて、タイミングよくボールに寄ってきたトップ下のセルジュ・ニャブリにパス。ニャブリは先ほど「Klatschen」したディアスの3人目の動きを見逃さずヒールでダイレクトパス、ペナルティーエリア内に侵入したディアスの華麗なドリブルからのフィニッシュワークは言うことなしでした。
狭いスペースでの高いテクニック、絶妙なポジショニング、受けるタイミング、ダイレクトプレーと2タッチの使い方など、どれをとっても破壊的な攻撃力を誇るバイエルンの象徴的なゴールだったと思います。
ここで補足したいのは攻撃の幅についてです。ターから始まりディアスで完結するゴールはおおよそセンターレーン内でのプレーです。
これを達成するために必要不可欠なポジショニングはサイドにあります。例で言うと、右WGミカエル・オリーズと左SBヨシプ・スタニッチです。
ちなみに2025/26シーズンのバイエルンの特徴として右SBコンラート・ライマーは保持時にハーフスペースに入り込むことが多く、サイドに張る2人の位置はサイドレーンの内側にいます。特にアタッキングサードでは必要最小限の幅を考えます。当然中央を狙うための幅でもあり、中からボールが外に出たときにシュートもクロスもドリブルも効果的にゴールに直結するような幅です(図8)。
その幅の基準はペナルティーエリアになります。中央を狙う意味は、センターレーンだけでプレーすることに固執するのではなく、ペナルティーエリア幅でのサイドへの展開(ゴールに近づけば近づくほど幅を狭める)も含みます。
BoS的な幅の取り方、サイドのポジショニングやプレー、そのエリアについての詳細は後々出てくることになります。
このエクストリームなまでに中央にこだわるもうひとつの理由はゲーゲンプレスです。ボールが中央にあり、ペナルティーエリア幅にフィールドプレーヤー全員がいれば、ボールに対してコンパクトな状態であり、もしボールロストしたとしても、素速いゲーゲンプレスが可能だからです。
(文:河岸貴)
【関連書籍】
『サッカー「BoS理論」 ボールを中心に考え、ゴールを奪う方法』
カンゼン・刊
河岸貴・著
ボールを中心に考え、ゴールを奪う方法論「BoS(ベーオーエス)理論」(Das Ballorientierte Spiel:ボールにオリエンテーションするプレー)が足りていない日本サッカーの現状に警鐘を鳴らす。ドイツ・ブンデスリーガの名門シュトゥットガルトで指導者、スカウトを歴任した著者が、日本のサッカーの現状を直視しながら、「BoS理論」におけるボール非保持時の部分、「Ballgewinnspiel:ボールを奪うプレー」の道筋をつけた一冊。
【了】



