横浜F・マリノスの井上太聖【写真:Getty Images】
タイムアップを告げるホイッスルが鳴ると、横浜F・マリノスの選手たちが次々とピッチに倒れ込んだ。その中でも、ひときわ悔しさを露わにしていたのが井上太聖だった。首位・FC町田ゼルビアを相手に、前半は相馬勇紀と明本考浩を封じ込めるなど、右サイドで存在感を発揮。だが、1-1のドローに終わった試合後、井上の口から出てきたのは、自らのプレーへの悔恨と、さらなる成長を誓う言葉だった。(取材・文:竹中愛美)[1/2ページ]
【2026/27明治安田J1リーグ第7節】
2026年9月12日 FC町田ゼルビア 1-1 横浜F・マリノス
(MUFGスタジアム)
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町田の「スペシャルな2人」を封じた井上太聖に確かな手応え

試合終了の瞬間、井上太聖はピッチに突っ伏し、悔しさを露わにした【写真:Getty Images】
選手たちが横浜F・マリノスのゴール裏へ挨拶に向かう中、井上太聖の足取りは重かった。ヘッドコーチのダニー・ヘイらに促されるようにして、最後尾からゆっくりとサポーターのもとへ向かっていく。その姿は、遠く離れた記者席から見ても印象的だった。
リーグ戦唯一の無敗で首位を走るFC町田ゼルビアとの一戦。ここまで1試合平均3得点を記録する相手に対し、マリノスが前半に許したシュートはわずか1本だった。
中でも右サイドでは、井上と近藤友喜が町田の相馬勇紀、明本考浩と対峙。クイックネス、スプリント、テクニックを兼ね備えた二人を抑え込んだ。
井上自身も、その手応えを感じていた。
「こっちのサイドは相手のストロングっていうか、本当に攻撃力はJリーグでも一番といっていいようなスペシャルな2人がいて。そこは友喜くんとも『絶対に抑えよう』っていうことを話してはいたので、そこがうまくできていたからこそ悔しいなという感じです」
町田はマリノスの最終ライン4枚に対して、前線に5人を送り込むようにして攻撃。相馬と明本も前後左右にポジションを入れ替えながら、マリノスの守備陣に対応を迫った。
数的不利になる場面が生まれる中で、井上らが意識したのは、すべての相手に同じように食いつくのではなく、外側への対応を多少遅らせても、中央で決定的なプレーをさせないことだった。
「大外は遅れちゃうのは仕方ないってことで、相手のシャドーが抜け出したのに対して、そこで一発やられないようには意識して、外は僕も友喜くんも対人の守備は自信を持っているので、そこは遅れてもいいっていう判断の中で90分間やっていました」
外側への対応をあえて優先しすぎず、中央を締める。その上で、外にボールが出た際には井上と近藤が1対1の強さを活かして対応する。そうした判断を共有したことで、2人の連係を崩さず、町田の相馬と明本に対応し続けた。
近藤との関係性について、井上も確かな手応えを口にする。
「僕のところを友喜くんがすごい助けに来てくれましたし、そこは本当に守備では良い関係性を築けているなと思っています」
近藤、そして中央を締めるボランチの山根陸らとの連係も機能した。1週間かけて準備してきた守備が、前半はほぼ完璧にハマった。
「本当に準備してきたものがちゃんと全部出たし、勝ちに値するゲームだったと思いますけど、それも全部含めて悔しいって感じですね」
マリノスは12分、松村晃助のコーナーキックから、谷村海那が頭で合わせて幸先よく先制した。町田がマリノスのハイラインを狙うのに対して、守備陣がしっかりと対応し、逆にマリノスがカウンターを打つ場面も多く、前半は完璧といっていいほどの試合運びだった。
だが、後半は町田に押し込まれる時間が増える。両サイドからクロスを送り込まれる中、84分に失点を喫した。
井上太聖が悔やんだ失点の場面「自分が大きく跳ね返せたら…」

井上太聖は、明本考浩と対峙した際も近藤友喜と良い連係を築き、対応した【写真:Getty Images】
町田の右コーナーキックからの攻撃で、相馬が右サイドからクロスを入れる。井上は後方に小川航基、前方にテテ・イェンギがいる状況で、頭で跳ね返した。
しかし、そのクリアしたボールに望月ヘンリー海輝が反応。望月が放ったシュートが諏訪間幸成の肩に当たってコースが変わり、ゴールへと吸い込まれていった。
ディフレクションによる不運な失点とも言えるが、井上は自らの責任を感じていた。
「失点のところでも自分が大きく跳ね返せたら、失点はなかったと思う」
井上は、90分間にわたって相馬、明本と対峙しながら、攻撃でも最後まで迫力を出そうとした。
85分には右サイドから中央へ切り込み、ペナルティエリア内の二田理央へボールを入れる。町田守備陣にブロックされたものの、果敢にゴールへ向かう姿勢を見せた。
さらに90分には、山根陸の左コーナーキックにファーサイドから飛び込み、ヘディングシュートを放つ。相手にユニフォームを引っ張られながらも合わせた一撃は、惜しくもクロスバーを直撃した。
守備で相手の武器を封じ、攻撃でもチャンスに絡んだ。首位相手に勝ち点1を獲得したことは、チームにとって一定の意味を持つ。だが、相手が1人少ない状況も含め、勝ち切るべき試合だったという思いは消えなかった。
「優勝を目指す上でこういう勝ち点の落とし方は本当にやってはいけないことだなとは思いますし、首位に勝ち点1を取れたのはチームとしては良かったかもしれないですけど、自分的にはすごい悔しいゲームになりました」
その言葉には、この試合だけではない積み上げへの自負もにじんでいた。
マリノスは昨季、そして明治安田J1百年構想リーグでも失点の多さが課題となっていた。今季のチーム始動時、スティーブ・コリカ監督も「点は取れているけど、失点が多かった。そこはしっかり変えていくと選手たちに話をしました」と語っている。
今季ここまでリーグ戦7試合で9失点、得失点差は「+2」。決して悪い数字ではない。開幕節の鹿島アントラーズ戦で大量失点を喫して以降、組織として守る部分や最後に体を張る部分は、着実に改善されている。
その変化を、井上も実感している。
「鹿島戦で大量失点してからずっと積み上げてきた」

横浜F・マリノス加入1年目の井上太聖は百年構想リーグから定位置をつかみ、新シーズンも開幕から7戦先発出場を果たしている【写真:編集部】
「ちゃんと崩されたシーンはあんまりなかった気がするし、最後に体を張るところだったり、当たり前のことはすごくできていると思う。それは鹿島戦で大量失点してからずっと積み上げてきたものだし、本当に良くなっているとは思いますけど、そこに勝ち点がついてくれば、もっともっと充実した日々になるかなという感じではありますね」
守備の改善を実感する一方で、井上が求めているのは、そこに結果を結びつけることだ。
「ジェイソン(・キニョーネス)と諏訪間も(飯倉)大樹さんも、ルベン(・ブランコ)もそうですけど、内側の選手たちがすごいやってくれているのはわかっているので、僕も頑張ろうと思いますし、そこはうまくディフェンスラインもそうですし、全体としてゼロにこだわるのはすごいやってきていることなので、(失点は)試合数×1は切りたいなという感じですね」
鹿島戦や浦和レッズ戦を除けば、複数失点がないことには確かな手応えがある。
「そこはすごい自信を持っていますし、ゼロで抑えられた試合はすごい気持ちがいいので、そういった瞬間を味わえるように日々やっていきたいなという感じですね」
順天堂大学在学中の2024年に特別指定選手としてサガン鳥栖に登録された井上は、マリノス戦でJ1デビューを果たした。だが、25分に負傷交代でピッチを後にするという悔しさを味わっている。
昨季、鳥栖に正式加入し、大卒1年目のルーキーイヤーながら、J2リーグで全38試合に出場し、2得点をマーク。シーズン終了後には、さらなる成長を求め、マリノスへ完全移籍で加入した。
「サッカー選手として成長するためにもビッグクラブで結果を残すのが上に行く一番の近道だと思いますし、去年ずっとJ2でやって、今年は絶対J1でやりたいと思っていた」
その言葉通り、百年構想リーグで定位置をつかむと、今季もリーグ戦7試合すべてで先発。鹿島戦を除いてフル出場を続けている。
184センチのサイズに、対人能力、正確なビルドアップ、前への推進力を備える大型サイドバック。J1で対峙するのは、昨季J2で戦った相手よりもさらに能力の高い選手たちだ。