日本代表の中盤で、新たな競争に挑もうとしている。2025年のE-1選手権以来となる招集を受けた田中聡は、ドイツへ渡ってから紆余曲折を経験しながらも、今季はシャルケで存在感を高め、再び日の丸を背負う舞台へ戻ってきた。ドイツでは田中碧と比較され、自身は遠藤航を「昔からの目標」と語る24歳。28日のベネズエラ代表戦でチャンスが巡ってくれば、日本代表で生き残るために何を見せるのか。(取材・文:元川悦子)
ドイツでは田中碧と「比較されることがすごく多くて…」
2027年のAFCアジアカップ サウジアラビアに向けた重要な強化の場となっている9・10月シリーズ。24日のウルグアイ戦は初キャップを飾った松木玖生、ジョーカー・塩貝健人、絶対的エースFW上田綺世のゴールで3-1の白星スタートを見せたが、残り3戦も同じような流れで行けるかどうかは未知数だ。
特に28日のベネズエラ戦は選手が大幅に入れ替わる分、計算できない部分がある。
森保一監督は前日会見で「初キャップになる選手や経験の浅い選手たちをスタートで起用して、強度高く、激しく厳しく戦ってくる相手との対戦で何ができるかを見たい。試合後の自分たちが成長できているようなチャレンジをしてもらえればなと思っています」と発言。11人中4~5人は新戦力を頭から送り出す構えで、戦術理解や連係・連動という部分で難しさが生じるかもしれない。
小久保玲央ブライアンや中野就斗のデビューが有力視される中、2025年E-1選手権・中国戦で1キャップを記録している田中聡もボランチのスタメンが濃厚だ。
相棒はウルグアイ戦で後半頭から出た鎌田大地か77分からピッチに立った田中碧が有力視される。仮にダブル田中が先発となれば、デュッセルドルフの先輩後輩が共闘し、2人でゲームコントロールという大役を担うことになる。
「今年1月の(デュッセルドルフ)加入当初は現地メディアに田中碧くんと比較されることがすごく多くて、『田中碧はこうだった』みたいな話が取材の中で1回は出てきました(笑)。そういう環境なので、どうしても意識してしまう。田中碧くんはパス出しやゲームメークが特徴で、すごくうまい選手。自分はボール奪取や局面の強さがウリなので、違ったスタイルで勝負していきたいですね」
彼は渡独直後の単独取材でそう言及していた。「いずれは2人でプレーしてみたい」と考えていたはずだ。
「たぶんミスもありますけど…」
そこから9ヵ月を経て、それがついに実現しそうなところまで来た。
その間、田中聡はまずデュッセルドルフで定位置を獲得。上昇気流に乗ったかと思われたが、4月18日のマグデブルク戦で太ももを負傷して昨季終盤を棒に振り、クラブもまさかのブンデスリーガ3部降格の憂き目に遭い、彼自身のキャリアに暗雲が漂った。
だが、降格によって移籍金が減額されたのが幸いし、同1部に復帰したシャルケへの移籍が実現。そこで9月5日のバイエルン・ミュンヘン戦から先発をつかみ取り、欧州組としての初めてのA代表招集につなげたのである。
「シャルケは内田篤人さんや板倉滉くん、吉田麻也さんだったりがいたクラブ。スタッフからも彼らの名前が出るので、自分もそこに相応しい選手になりたいなというのは常日頃から思っています。
夏のプレシーズンの自分はだいたいベンチだったし、開幕(アウクスブルク戦)も出場できなかった。でも、やるべきことは分かっているつもりだったし、運もあった。しっかり自分がフォーカスした結果が今につながっていると思います」
本人もここまでの歩みをそう振り返る。バイエルン相手に互角以上のプレーを見せたことで、森保監督の評価が急上昇したのは間違いない。その積み重ねが奏功し、今シリーズでチャンスが回ってきたのだ。
「代表では誰と組んでも基本的にうまい選手ばっかりなので、自分はどっちかというとまず守備から始めたい。自分をしっかり出すことですね。こういう舞台は遠慮しがちですけど、そうなったらすごくもったいないし、試合が終わったら後悔すると思う。たぶんミスもありますけど、どんどんチャレンジしたいなと思います」
ウルグアイ戦で中盤をコントロールした佐野海舟の一挙手一投足を頭に浮かべつつ、同じように攻守両面の起点になれれば理想的だ。
実際、田中聡のドイツ1部でのタックル勝利数は3試合で37回。4試合で36回の佐野海舟より上だ。
もちろん上位にいるマインツと中位のシャルケではボール保持や内容面が違うため、単純比較はできないが、「自分のプレーモデル」と言い切る2つ上の佐野海舟に近いパフォーマンスを今、示せているのは間違いない。
「自分は航さんとは…」
加えて言うと、田中聡には球際の強さ、ボール奪取力のみならず、左足から刺すミドルレンジのパス、強烈シュートという攻撃面の強みもある。今季シャルケがつなぐスタイルで戦っていない分、あまり攻めの部分を出せていないようだが、本人はこの一戦では虎視眈々と狙っていく構えだ。
「ボールが来た時にどれだけつないで前に行けるかというのはすごく大事。まだ碧くんや大地くんには及ばないですけど、自分のペースで徐々に上げていきたい。僕は前が見えたら刺せる部分はあるので、そこは積極的に出していきたいですね」と意欲を前面に押し出した。
縦パスの精度や迫力は佐野海舟を上回っていると言っても過言ではないかもしれない。そういう印象を森保監督やコーチングスタッフに与えることで、彼は4ヵ月後のアジアカップ参戦、そして2030年W杯出場という大きな夢に近づいていくはずだ。
長野市出身で、長野パルセイロU-15から湘南ベルマーレユースに進み、トップに昇格した彼にとって、大先輩・遠藤航の存在は大きな目標。遠藤航も2015年E-1選手権に初招集された時点では右サイドバックのサブからスタートし、2018年ロシアW杯出番なしという苦しみを味わって、主力に上り詰めた。
北中米W杯はケガで離脱する羽目になり、惜しまれながら代表引退を表明したが、足掛け12年間、日の丸をつけて躍動した33歳のベテランの軌跡は田中聡の心の奥にしっかりと焼き付いている。
「自分は航さんとは似た部分もすごくありますし、その存在が昔からの目標。超えていきたいですね」と神妙な面持ちで言う彼は、背番号6の後継者になれるのか。そして目下、W杯空白県となっている長野県出身者のW杯第一号をつかめるのか…。
今回のベネズエラ戦が未来の代表キャリアを大きく左右する可能性も大いにあるだけに、24歳のレフティーのパフォーマンスは必見。2025年に1年間プレーしたサンフレッチェ広島の本拠地で異彩を放つ田中聡の姿を多くの人々が待ちわびている。
(取材・文:元川悦子)
【著者プロフィール:元川悦子】
1967年、長野県生まれ。94年からサッカー取材に携わり、ワールドカップは94年アメリカ大会から2026年北中米大会まで9回連続で現地に赴いた。「足で稼ぐ取材」がモットーで、日本代表は練習からコンスタントに追っている。著書に『U-22』(小学館)、『黄金世代』(スキージャーナル)、「いじらない育て方 親とコーチが語る遠藤保仁」(NHK出版)、『僕らがサッカーボーイズだった頃』シリーズ(カンゼン)などがある。
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