明治安田J2リーグ第37節、徳島ヴォルティスはRB大宮アルディージャに2-1で勝利し、最終節での自動昇格へ望みをつないだ。貴重な同点ゴールを決めた渡大生は、この一撃でクラブ歴代最多得点記録を更新した。近年不調に喘いでいたチームを再びJ1の舞台に導くため、最終節での大仕事に闘志を燃やしている。(取材・文:元川悦子)[1/2ページ]
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増田功作監督が課す厳しい競争

【写真:Getty Images】
“魔境”と称される通り、最終盤までもつれにもつれている2025年のJ2。ラスト2戦という段階になっても、確定しているのは愛媛FCのJ3降格だけ。J1昇格も8チームが狙える状況だった。
その1つである徳島ヴォルティスは第36節時点で勝ち点61の5位。首位・水戸ホーリーホックと6差、2位・V・ファーレン長崎と5差という状況だった。
自動昇格への道は厳しいが、ラスト2戦は3位につけるRB大宮アルディージャと長崎との直接対決。まず23日のアウェイ・大宮戦に勝てれば、29日の最終節をホームで迎えられる。そういう展開に持ち込みたかった。
増田功作監督は前節・ヴァンフォーレ甲府戦からスタメンを3人変更。出場停止から戻ってきた鹿沼直生、ルーカス・バルセロスを先発に戻し、ベンチ外だった井上聖也を抜擢。3バックの一角に配置した。
前節スタートから出ていた10番・杉本太郎がベンチ外というのは少なからず驚きを与えたが、彼と長く共闘している渡大生は「そこはチーム内に健全な競争があるんで」と説明。
増田監督は普段から厳しい競争を課しており、前の試合で活躍した選手を外すのは日常茶飯事だという。
となれば、選手たちもつねに危機感を抱かないわけにはいかない。その規律と厳しさが今季の徳島を支えているのだ。
「残り数試合はそういった思い切りがすごく大事」
大宮との大一番でも彼らの凄まじい闘争心が色濃く出ていた。
序盤はホームの大観衆に後押しされる大宮に押されがちで、開始14分にいい崩しからオリオラ・サンデーに先制点を奪われてしまったが、今回の彼らは決してひるまなかった。
反撃ののろしとなったのが、30分の同点弾だ。左サイドに流れたボランチ・鹿沼のクロスをDFイヨハ理ヘンリーがクリア。これを左ウイングバック(WB)の高木友也がペナルティエリア内で拾ってスルーパスを送る。
そこにいたのが渡だった。背番号16は迷うことなく左足を一閃。巧みにネットを揺らしたのだ。
「高木選手が自分がほしいところに出してくれたんで、足を振り抜くだけでした。残り数試合はそういった思い切りがすごく大事。あの場面で同点にできたのは、チームにとってすごく大きいと思います」と彼は力を込める。
渡は2016〜17年、2023〜2025年と通算5年間徳島に在籍するが、この1点で通算ゴール数が49となり、クラブ歴代最多得点記録を更新したという。
まさに節目の一撃がチームに大きな勢いを与えたのである。
凄まじいホームの圧。それでも光った堅守
さらに徳島が逆転したのはこの4分後。始まりはGK田中楓のロングキックだった。
これをバルセロスとDFが競ったこぼれ球を児玉駿斗がカット。渡とトニー・アンデルソンを経由し、最後はバルセロスにスルーパスが通った。
今季J2得点ランキング3位につける背番号99は冷静に右足で仕留め、今季14ゴール目をマーク。一歩抜け出すことに成功したのだ。
前半は2−1で終了。となれば、後半の大宮は凄まじい反撃に打って出る。案の定、ベンチに温存していた杉本健勇、谷内田哲平らを次々と投入し、凄まじい圧をかけてきた。
猛攻の前に、渡はいち早くローレンス・デイビッドと交代してベンチで見守っていたが、今季総失点23というリーグ最少失点の堅守が大いに光った。
最後は甲府戦から復帰した岩尾憲もピッチへ登場。守備の意思統一を明確にし、チーム全体を統率すると、そのままゴールを割らせることなく、タイムアップの笛を迎えた。
徳島はこの重要局面で今季初の逆転勝利を飾り、勝ち点を64に伸ばして4位に浮上。自動昇格の可能性を残した状態で、最終節・長崎戦に挑める状況になったのである。
そこに至る大きな1点目を奪い、逆転弾の起点にもなった渡の貢献度は特筆すべきものがあった。