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J2 5日前

J1昇格も「嬉しくなかった」。V・ファーレン長崎、翁長聖は笑顔ではなく涙で終えた。「1年やってたら話は違う」の真意【コラム】

シリーズ:コラム text by 元川悦子 photo by Getty Images

 明治安田J2リーグ第38節(最終節)が11月29日に行われ、V・ファーレン長崎は敵地で徳島ヴォルティスと対戦。試合は1-1の引き分けに終わったが、3位のジェフユナイテッド千葉を勝ち点1差で上回ったため、来季からのJ1昇格が決定した。殊勲の同点弾を決めた翁長聖は、ピッチが歓喜に包まれる中ひとり涙を見せた。(取材・文:元川悦子)[1/2ページ]
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“3度目のJ2昇格”に挑んだ翁長聖

翁長聖 V・ファーレン長崎
【写真:Getty Images】

 最終節までJ1自動昇格2枠もプレーオフの3〜6位も全く決していないという”異例の展開”に陥っていた2025年J2。混沌とする上位争いをリードしていたのが、11月23日の水戸ホーリーホックとの上位争いを制したV・ファーレン長崎だった。

 彼らは第37節終了時点で勝ち点69。2位・水戸に2差、3位・ジェフユナイテッド千葉に3差をつけており、11月29日の最終節・徳島ヴォルティス戦で引き分け以上なら、8年ぶりのJ1切符を手にできるところまでこぎつけた。

 だが、対戦相手の4位・徳島も自動昇格の可能性を残していた。条件的には厳しかったが、サッカーは最後の最後までどうなるか分からない。可能性を信じて勝ち切るしかなかった。

 鳴門・大塚スポーツパーク・ポカリスエットスタジアムに1万5000人超の大観衆が集結した注目の一戦。

「絶対に勝ってJ2優勝・J1昇格を引き寄せる」と闘志を燃やしていたのが、右ウイングバック(WB)翁長聖だ。彼は長崎が前回昇格した2017年、FC町田ゼルビアが圧倒的な強さで最高峰リーグに上がった2023年と、2度のJ1昇格を経験。今回、3度目のJ1行きに挑んでいたのだ。

「1回目は長崎でプロ1年目。何も分からず、周りに連れて行っていってもらった。2回目は町田。他チームには申し訳ないですけど負ける気がせんくて、そのまま駆け上がった」と本人も2度の成功体験を振り返る。 

「これ言ったらアカンかなと思いますけど…」

 そんな翁長も30歳になり、長崎、RB大宮アルディージャ、町田、東京ヴェルディと4つのクラブを渡り歩いてきた。J1基準も熟知したうえで、今年7月、プロキャリアを踏み出した古巣・長崎に戻ってきた。しかも指揮を執るのは当時の長崎、そして大宮時代に師事した高木琢也監督である。

「これ言ったらアカンかなと思いますけど、やりづらさもあったかなと。『あれ、こいつこんなんやったっけ』『もっとこうやったんじゃないか』と思われるかもしれないとプレッシャーを勝手に感じてしまう自分がいた」

 彼はそのように本音を吐露。高木監督をつねに納得させる高い領域を追い求め、J1昇格に王手をかけた。だからこそ、徳島戦で白星をもぎ取り、文句なしのJ1行きを決めたかったのである。

 しかしながら、この日の長崎は思い描くような戦いができなかった。

「引き分けでも昇格」という意識がチーム全体にあったせいか、守備的な入りとなり、徳島に主導権を握られる。翁長のサイドも相手左WB高木友也、左シャドウの渡大生のアグレッシブな攻めを受け、なかなか高い位置を取れずに苦しんだ。

 41分の徳島の先制点はまさに苦戦の象徴と言っていい。相手右CKを起点に、右サイドからクロスを入れられた瞬間、翁長は鹿沼直生と競ったが、相手のヘッドを許し、渡のゴールにつなげられてしまった。

 この時点では水戸が0-0だったため、0-1でも長崎の2位は確保できたが、後半開始直前に先に試合を始めていた水戸が1点を先取。長崎は一時的に3位に落ちた。

1人、涙が止まらなかった背番号「50」

 となれば、何としてもゴールを奪って自動昇格圏に再浮上しなければいけない。選手たちはその情報を一切知らなかったというが、「どこかで必ず1本ある。チャンスが転がってくる」と翁長は信じて疑わなかった。

 その思いが結実したのが、68分の同点弾だ。キャプテン・山口蛍のサイドチェンジを左サイドで受けた途中出場の笠柳翼が思い切ったドリブル突破を披露する。

 相手をかわしてペナルティエリア深いところまで侵入し、折り返した。このクロスにファーから飛び込んできたのが翁長。背番号50をつける男は、8年前の長崎が昇格を決めたカマタマーレ讃岐戦でも強烈な一撃をお見舞いしているが、ここ一番で勝負強さを見せつけたのである。

「翼から球がこぼれてきた時に自分がフリーになった。相手がどこにいるのかもだいたい分かったんで、当たりましたけど入ってよかったです」と本人も神妙な面持ちで言う。

 長崎はこの1点によって2位に再浮上。タイムアップ寸前の守護神・後藤雅明のスーパーセーブもあって、何とか1−1のドローに持ち込み、自動昇格が決定。選手やベンチ、サポーターは歓喜を爆発させたが、翁長は1人、涙が止まらなかった。その胸の内を彼はこう話したのだ。

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