J1昇格プレーオフ・準決勝が7日に行われ、ジュビロ磐田は徳島ヴォルティスと対戦した。明治安田J2リーグの最終順位で相手に劣る磐田は、勝利が絶対条件だった。先制点を奪ったが、踏ん張り切れず1-1のドロー決着。試合後には、この日スタメン起用された井上潮音が涙する場面があった。(取材・文:河治良幸)[1/2ページ]
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井上潮音。涙の理由
徳島ヴォルティスとジュビロ磐田による昇格プレーオフの準決勝は1-1で終了。レギュレーションにより、リーグ上位の徳島がジェフ千葉との決勝へ進み、ジュビロ磐田の2025シーズンは幕を閉じた。
笛が鳴った瞬間にピッチに崩れ落ちた井上潮音の姿は、半年間を懸けてきた彼の思いを静かに物語っていた。
涙の理由を聞かれると、井上は落ち着いた表情で語る。
「ただただ昇格、そこでしか本当に自分が…勝たせたいと思っていたので。そこに対しての悔しさがありました」
徳島戦はスタメンに名を連ねた。中盤で中村駿、金子大毅とともに粘り強く構え、徳島にボールを握られる時間が長い中でも、守備の“繋ぎ目”を切らさず、前へ出るスイッチを何度も入れた。
そして80分、1-0のリードを保ったまま交代した。
その2分後、磐田は微妙なジャッジの直後に隙を突かれて、岩尾憲のサイドチェンジを起点とした柳澤亘のクロスからトニー・アンデルソンに決められ、磐田は追いつかれた。
前半にセンターバックの江﨑巧朗の負傷交代もあり、すでに交代カードを使い切っていた磐田。ピッチのメンバーで最後まで勝ち越しを狙ったが届かず、昇格の夢は潰えた。
井上がサンフレッチェ広島所属時に在籍半年にして磐田移籍を選んだ理由には、かつて横浜FCで、コーチと選手の関係で指導を受けた“ジョン”(ハッチンソン前監督)の存在があった。
「今年は昇格しないといけなかった」
広島では十分な出番を得られていなかったことも確かだが、サッカー観を共有できる恩師が率いる磐田なら、自分はJ1昇格の力になれる。そう前向きに考えることができたからだ。
そのジョンが、志半ばで契約解除となった。
アウェイで水戸ホーリーホックに勝利した試合のように、思い描いたものが全て発揮されるような試合もあったが、下位に取りこぼす試合があまりにも多かった。
リーグ戦7試合を残して、磐田の指揮はユース出身の安間貴義監督へと託され、チーム方針は昇格のための現実的な戦いに舵を切る。
“球際、切り替え、ハードワーク”を合言葉に、しっかりと対戦相手を分析して勝機を掴みにいく、言わば泥臭い戦い方だ。それでも井上は言う。
「是が非でも今年は昇格しないといけなかったので。監督が替わってサッカーが変わるというのも自分の中ですんなりと受け入れられましたし、その中で成長できた部分もあったと思う」
移籍当初に描いた未来とは異なる現実。しかし井上はそこから逃げず、むしろ向き合うことで、選手としてのやりがいを見出した。
残り4試合となったV・ファーレン長崎戦から、システムは3-5-2へ変更。安間監督が守備の生命線として考える中盤は中村、金子、そして上原力也の3枚がスタメンに固定された。
井上は“ゲームチェンジャー”、つまり流れを変える、あるいは守り切るための重要な交代カードとして、チームの後半戦を支えた。
「後ろめたさはないというか」
そして掴んだ徳島戦でのスタメン。もちろん、上原のコンディション的な問題も理由にあるかもしれないが、安間監督が安心してスタートから送り出すだけの信頼関係があり、実際に井上もピッチ上で応えた。
井上が出ていた80分間も、ほとんどは徳島側がボールを持ち、磐田陣内で攻め続けていたが、彼が持てば前向きにボールを運ぶことができたのはさすがだった。
「監督が替わって、よくあそこまで順位を上げたと思いますし、みんなが全部出し切った結果が5位だと思うので。
監督もロッカーで言ってましたけど、後ろめたさはないというか。本当にみんなが出し切ってのこの結果だと思うので。悔いはないですし、これを真摯に受け止めて、次に向かうべきかなと思います」
試合に負けたわけではない。本音としては思うこともあるだろう。しかし、フルシーズンやってきた結果が5位でのプレーオフ、そして準決勝での敗退だった。
決勝をかけて戦った徳島について、井上はその強さをこう認める。



