ガンバ大阪がAFCチャンピオンズリーグ2(ACL2)を制覇した。選手、監督はもちろんのこと、スタッフ陣の貢献も、クラブがアジアの頂点を取る上で欠かせなかった。そこで本稿では、ピッチ外でガンバを支える“仕事人”たちにフォーカス。現地サウジアラビアで取材した高村美砂氏が、その奮闘を綴る。第4回は広報担当の蔵本宗太朗について。(取材・文:高村美砂)[1/2ページ]
広報が感じた危機感。アウェイではメディアの数が…
昨年9月にAFCチャンピオンズリーグ2(ACL2)2025/26の戦いが始まって2試合目。初のアウェイゲームを戦うべく、タイ・ラーチャブリーに足を運んだ際、広報グループでリーダーシップをとる蔵本宗太朗は大きな危機感を覚えたという。
バンコクから車で約2時間半と、決してアクセスがいいとは言えない場所での開催だったのもあったかもしれないが、日本のメディアはゼロ、現地メディアもカメラマンが2〜3人と『注目』とは程遠い状況にあったからだ。
「ACL2では必ず前日に監督と選手一人が出席する前日会見が行われます。ですが、ラーチャブリーFC戦における同会見の出席者は現地カメラマンの方くらいで、ガンバの監督、選手に質問される方は一人もおらず『初陣』感は全くありませんでした。
もちろん、Jリーグが佳境を迎えるタイミングで、かつACLE(AFCチャンピオンズリーグエリート)に出場しているチームの露出状況を見ても、なかなかACL2の試合まで、しかも何も懸かっていないグループリーグに注目して取り上げていただくのは難しいというのは重々理解していました。
ただ、クラブとしては21年のACL出場以来、5年ぶりの『アジア』の戦いです。かつてコンスタントにACLを戦っていた時代の話を聞いても、アジアを勝ち抜くこと、存在感を示すことは、アジアでの知名度を上げるだけではなく、クラブ、チームの価値、評価を高めることにもつながっていきます。であればこそ、我々広報チームも心して大会を進めていかなくちゃいけないと思っていました」
チームに限らず、クラブ全体としてそうしたマインドで臨むことが、社員の意識向上につながり、ひいては、クラブが21年のリブランディングで掲げた『日本を代表するスポーツエクスペリエンスブランド』の実現に繋がっていくという考えもあったからだ。
これは昨年、クラブの代表取締役社長に就任した水谷尚人のリーダーシップに引っ張られたものでもあったという。
ガンバ大阪のリアルを知ってもらうための取り組み
「大会が始まる前からこのACL2での経験をクラブとしてもしっかり財産にしていこうという話は、水谷から常々リマインドされていました。各社員の学びということもさることながら、よりグローバルな視点でビジネスを展開していく足掛かりを作っていくためにも、です。
実際、東南アジアにおいては23年にタイのチョンブリFCと提携し、現地でのガンバのネームバリューや知名度の向上を意識した取り組みを行ってきましたが、それをより広域にわたって実現するためにも、アジアの戦いはクラブにとって格好の機会です。
だからこそ『クラブスタッフにも一緒に戦っている意識を持ってほしい』『チームと同様にチャレンジする意識を持ってACL2に向き合ってもらいたい』というのが水谷の考えでした」
実際、先に書いたアウェイ初戦の状況も踏まえて、広報チームとしても露出を増やし、かつガンバの認知を広める働きかけをしていくことは大会を通して意識してきたという。
今シーズンからグラフィックを一新したり、動画のフレッシュ化を図るなど、オウンドメディアの強化を意識したのもその1つ。また、現在の広報担当者4名のうちチームの広報業務を担う3名がアウェイの現場を体感できる体制も整えた。
「水谷の『できる限り多くの社員が現場を体感する体制をとってほしい』という意向もあり、グループステージの段階から広報も順番にアウェイ戦に帯同し、決勝は『優勝対応』があると信じて3人で現地に乗り込みました。ACLにおけるメディア対応は国内リーグ戦のそれとはまた違う部分もある中で、誰か一人ではなく、広報それぞれが知見を広げることが狙いでした。
また、ACL2のアウェイ戦はどうしても現場の手が足りなくなるため、広報としての基本的業務に限らず、『ACL2レポート』などSNSを通じた情報発信も並行して行う必要がありました。そうして行く先々の状況に応じて露出の仕方を工夫し、かつ、その経験を次の試合で活かすという循環の中で、決勝に向けてはいかにメディア露出やSNSでの発信を最大化できるかをチーム内で協議しながら進んできました。
今回は情勢的にも多くの方が現地に足を運ぶことができないだろうという想定のもと、ガンバに関わるすべての皆さんに優勝までのストーリーを共に歩んでいる実感を持っていただくためには何ができるのか。チームの思いや熱量をいかにサポーターの皆さんに届けられるのかを考えることは、僕たち自身の学びにも繋がったと感じています」
もっとも、広報として一番に意識していたメディアへの露出については、冒頭に書いたラーチャブリー戦の経験をもとに大会が進むほど変化が見られたのかといえば「そうとは言い切れなかった」と振り返る。
「まだまだ課題が残りました」の言葉の意味
「現地にまで取材に来ていただけなくても、メディアの皆さんには前日会見の写真や出席者のコメントをできるだけ速やかに提供するなど、より多くのメディアに取り上げていただくための働きかけはしてきました。ですが、そこにいかにプラスアルファを生み出していけるかについては、まだまだ課題が残りました。
これはスケジュールも影響したとは思います。というのも今シーズンは常時、中2〜3日で試合をしているような状況で、選手の負担を考えるとインタビューの時間を確保できる日がかなり少なく…。決勝前には様々なメディアの方に注目していただきましたが、『11連戦』の最中だったので、決勝に向けて選手の負担をできる限り抑えながらということを念頭に、合同インタビューの形を取るのが精一杯でした。
そうした状況を受けて、決勝に向けてはよりオウンドメディアを活用して、ガンバファン・サポーターの皆さん、サッカーファンの皆さんが、決勝がより楽しみになるような露出を広報グループとしても意識しました。それについてはファン・サポーターの皆さんからもたくさんの反響をいただきましたが、果たしてそれがクラブの認知を広めることに繋がったのかと言えば、そうとは言い切れないというのも正直なところです。
ただ大会を進めるほどアジアにおける知名度、注目度が上がっていくのは間違いなく実感したので、この経験を今後にどう活かしていくのかが僕たち広報グループの大命題になっていくと考えています」
決勝戦に際しては、サウジアラビアの大手メディア『Al Arabiya TV』がガンバの特集番組を制作。同メディアは『Al Jazeera』と並んで国内でも高い影響力を持ち、本来は政治系のニュースを数多く取り扱っているが、同番組において30分にもわたりガンバのこれまでの歩み、水谷代表取締役社長のインタビューが放映されたのは特筆すべきだろう。
もちろん、それはファイナリストとしての注目もあってこそだが、決勝に向けたクラブとしての絶え間ない発信もその一助になったに違いない。



