ジャンニ・インファンティーノ会長【写真:Getty Images】
2026年ワールドカップ(W杯)閉幕の余韻が残るなか、国際サッカー連盟(FIFA)が打ち出した約200億ドル規模の巨大構想は、世界的な反対運動と組織内部の反発を招き、公表からわずか4日で撤回された。
FIFAの“W杯事業売却案”はなぜ崩壊したのか
FIFAが7月28日に発表したのは、放映権、スポンサー、チケット、ライセンス、大会運営機能を新会社「FIFA Forward Enterprise(FFE)」へ集約し、最大20%の非支配株式を外部投資家へ売却する民間資本導入案だった。
新会社の想定評価額は約200億ドルで、調達額は最大42億ドル。FIFAは経営権や競技規則、国際日程、大会方式の決定権を保持すると説明した。2027~30年の通常開発資金を加盟協会当たり800万ドルから2000万ドルへ増額し、FFEに任意参加した協会には別枠で最大2000万ドルを用意。「サッカーの民主化」を大義に掲げていた。
だが、反発の核心は民間資本の是非だけでなく、意思決定の手続きにあった。UEFAは発表当日に「サッカーはFIFAの所有物ではなく、売るものでもない」と批判。CONCACAFは報道とFIFAの発表を通じて初めて詳細を知ったと明かし、AFCも事前協議の欠如に強い懸念を示した。問題の構図は「UEFA対FIFA」から、FIFA執行部と意思決定から外されたサッカー界との対立へ変わった。
7月29日には、加盟協会が期限までに参加意思を示さなければ特別資金の対象外になる仕組みも批判を浴びた。UEFAはこれを事実上の圧力と受け止め、反対姿勢をさらに強めた。
最大の転換点は30日だった。UEFAと加盟55協会は計画を全会一致で拒否し、完全撤回と、将来も大会や統治を民間所有に開放しないという「拘束力のある保証」が示されるまで、FIFA大会へ参加しないと宣言。欧州が一致団結し、ジャンニ・インファンティーノ会長が主導する計画に反対する姿勢を示したことが世界のサッカー界に大きな影響を与えた。
その後、CONCACAFも加盟41協会とともに計画を正式に拒否。欧州勢が離脱すれば、W杯の競技価値だけでなく、放映権、スポンサー、チケット収入も低下する。UEFAのボイコットは、FIFAが投資家へ売ろうとした事業自体の価値を揺るがす圧力となった。
それでもFIFAは31日未明、「誰もサッカーを売ろうとしていない」と反論し、協議を継続する方針を表明した。ところが同日、AFCがUEFAとCONCACAFへの連帯を発表。計143協会を抱える3連盟が反対や重大な懸念を示したことで、大陸連盟の方針が各協会の投票を法的に拘束しないとしても、過半数の支持を得る政治的な見通しはほぼ失われた。
さらに、インファンティーノ会長の上級顧問カルロス・コルデイロ氏が「サッカーにとって悪い取引」として辞任。ケビン・ラムール最高執行責任者(COO)も、職員は欺かれたと訴え、構想を「一人の人間の計画」と公然と批判した。外部団体との対立は、インファンティーノ会長とFIFA内部の対立という統治危機にまで発展した。
CONMEBOLも正式な反対表明は避けたものの、事業範囲や会社構造、統治方法について追加説明を要求し、即座に支持することはなかった。
その数時間後、インファンティーノ会長は、構想が当初の目的に資するものではなくなるほどの分断を生んだとして、「この提案は進めない」と発表した。UEFAのボイコットによる経済的圧力、AFCがUEFAとCONCACAFへの連帯を表明したことで崩れた票計算、手続きへの不信、そして内部幹部の反乱が、急転撤回を決定づけたとみられる。
今回の撤回によって、世界のサッカー界を分断しかけた危機はひとまず回避された。しかし、問題がすべて解決したわけではない。UEFAは案の完全撤回だけでなく、FIFAが今後も大会や統治を民間所有に開放しないという「拘束力のある保証」を求めている。
一方、インファンティーノ会長の声明は「この提案を進めない」とするにとどまり、UEFAの求める拘束力のある保証については言及していない。
さらに、大陸連盟や各国協会、FIFA内部の幹部にも十分な説明がないまま、世界最大のサッカー大会に関わる計画が進められた経緯も明らかになっていない。計画は撤回された。だが、世界のサッカーを誰が、どのような手続きで動かすのかという問いは残されたままだ。
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