
トラブゾンスポル モハメド・サラー【写真:Getty Images】
モハメド・サラーをはじめ、今夏も世界的スターの加入が相次ぐトルコのスュペル・リグ。国家資本を背景にしたサウジとは異なり、インフレと通貨安に苦しむ国で、なぜこれほど大物を呼び込めるのか。経済構造やクラブ文化、欧州で戦える魅力から、その“カラクリ”をひも解く。(文・金山悠吾)
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「そんな選手までトルコへ?」スターが続々集結する理由

トラブゾンスポル モハメド・サラー【写真:Getty Images】
8月5日、モハメド・サラーを乗せた飛行機がトラブゾンに到着すると、空港周辺は約2万5000人のサポーターで埋め尽くされ、耳をつんざくようなチャントが鳴り響いた。
「おお神よ、神の御名のもとに、モハメド・サラー!」
リヴァプールで数々の栄光をつかみ、イスラム圏でも絶大な人気を誇るサラーが新たな舞台に選んだのは、トルコのトラブゾンスポルだった。
しかし、この夏、熱烈な歓迎を受けてトルコの地に降り立ったスターはサラーだけではない。
トラブゾンスポルには、サラーのリヴァプール時代の盟友ファビーニョも加入。フェネルバフチェにはエンゴロ・カンテ、ロメル・ルカク、メイソン・グリーンウッド、ナタン・アケが加わり、ベシクタシュもドゥシャン・ヴラホヴィッチ、レアンドロ・トロサールらを獲得した。
「そんな選手までトルコに?」。今夏は、そう驚かされるような移籍ニュースが相次いだ。
もっとも、世界的スターがトルコを新天地に選ぶこと自体は、突然始まった現象ではない。昨夏にはガラタサライがレロイ・サネを獲得し、ビクター・オシムヘンも完全移籍でチームに残った。
さらに過去をさかのぼれば、ロベルト・カルロス、ウェズレイ・スナイデル、ディディエ・ドログバ、メスト・エジルらもトルコでプレーしてきた。振り返れば、トルコは以前から名だたる選手たちを引き寄せてきた場所でもある。
とはいえ、トルコのスュペル・リグはサウジアラビアやカタールのように国家資本を背景にしたリーグではない。むしろトルコ経済はインフレと通貨安に苦しんでいる。それなのに、なぜこれほどの大物を呼び込めるのか。
トルコの経済停滞が生む逆説

トルコリラ【写真:Getty Images】
答えの一つは、皮肉にもトルコ経済の苦境にある。
エルドアン政権の低金利・高成長路線などを背景に、トルコではインフレとリラ安が進行した。物価上昇はピーク時から鈍化したものの、いまなお高水準にある。
トップクラブは欧州カップ戦の分配金や選手売却でユーロを稼ぐ一方、国内選手やスタッフの給与、施設運営費など、支出の一部をリラで支払う。
リラ安が進めば、ユーロ換算した国内コストや固定されたリラ建て債務の負担は相対的に軽くなる。
もちろん、サラーやカンテ級のスターの報酬は高額であるうえに、ユーロで支払う契約を結ぶこともある。
さらに、トルコでは契約を「手取り額」で提示し、税負担をクラブ側が引き受けるケースもある。サラーも年間1700万ユーロを手取りで受け取る契約と報じられた。
それでも「ユーロで稼ぎ、コストの一部をリラで払う」構造は、スター獲得へ資金を振り向ける余地を生む。
国家主導の巨額投資ではなく、外貨収入とリラ建てコスト、税制、スポンサー収入などを組み合わせることで、トルコ勢は「本来なら手が届かない選手」へ手を伸ばしている。
トルコは「第二のサウジ」なのか

ガラタサライ 長友佑都【写真:Getty Images】
では、この大型補強はいつまで続くのか。スターを次々と集める姿だけを見れば、かつての中国スーパーリーグや近年のサウジ・プロリーグを思い浮かべる人もいるだろう。
ただ、トルコには大物選手がやって来る以前から、100年以上続くクラブの歴史がある。
「イタリア以上にサッカーへの熱がある」。かつてガラタサライに在籍した長友佑都がそう評したように、スタジアムを埋め尽くす熱狂的なサポーター文化も根付いている。
スターを呼んでリーグを一から作ろうとしているわけではない。すでにある巨大なサッカー文化の上に、スターが流れ込んでいる。
ここは、国家プロジェクトとして存在感を高めたサウジや、短期間の投資ブームに終わった中国との大きな違いだろう。