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スペシャルインタビュー・宮間あや(岡山湯郷ベル)【サッカー批評 issue57】

『なでしこプレーメーカの知性と感性』
「見た人にも何かを感じてもらえたら」女子サッカー日本代表を牽引する“頭脳”は、ロンドン五輪にどのような価値を感じているのか。また大会にかける思いとは。宮間あやの胸中に迫った。

text by 西部謙司 photo by Kenzaburo Matsuoka

なでしこジャパンの攻撃を司る宮間あや【写真:松岡健三郎】

「風の強い中、たくさんの方に来ていただき、ありがとうございます」

 神戸ホームズスタジアムにブラジルを迎えて4ー1と撃破した直後、キャプテン宮間あやはピッチ上でマイクを向けられていた。「INAC神戸をよろしくお願いします!」

 そう言って挨拶を終えている。凄い人だと思った。

 彼女は岡山湯郷ベルの選手だから、INAC神戸はいわばライバルチームだ。ただ、会場が神戸だったから、ファンに応援を頼むなら地元のクラブがいいと思ったのだろう。

 それよりも驚いたのは、冒頭の言葉だった。

 当日、スタジアムの屋根は閉まっていた。少なくても試合が始まる1時間前から、宮間には「風が強い」という実感はなかったはずなのだ。まだ息も落ち着いていないような試合直後、彼女はスタジアムを埋めた観衆の立場で考えていた。「(風が強かったことが)何でわかったのかなー。でも、たぶん自分が試合を見に行った経験があるから、そういうことを言ったのだと思います。サッカーって、見に行くのけっこう大変じゃないですか。仕事もあるし、混雑しているし。だから、うれしくてそう言ったと思います」

 視野の広さはピッチ上だけではないようだ。女性らしい気づかい、いちサッカーファンとしての感性、それもあるだろう。ただ、それだけではない気がした。

宮間にとってのオリンピックとは

――五輪は、宮間さんにとってどういう大会ですか? 男子で言えば、W杯が2つあるようなものですけど。

宮間 W杯と五輪、私たちは同じ気持ちですけど、一般の皆さんにとっては五輪のほうが認知されています。毎年W杯がある競技もありますから、W杯優勝よりも五輪のメダリストというほうが、多くの方にはわかりやすいと思います。

――男子のW杯で優勝する国は、だいたい以前に優勝している。一度、世界一を獲ったことでの変化はありますか?

宮間 同じ世界大会ととらえれば、一度見た景色なので、優勝をイメージしやすくはなります。けど、私たちは常勝チームではありません。W杯は「勝っちゃった」という感じもありましたから。W杯優勝で、五輪はより厳しい大会になるでしょう。男子の強豪国とは違うように思います。

――不安はありますか?

宮間 どうでしょう…結果に対する不安はないです。けど、もう一度後悔のない戦いができるかどうかは不安です。

――どうして?

宮間 スウェーデン遠征の米国みたいに、ガチの戦いを挑まれたときに、自分たちの力を出し切れるかどうか。予選が終わって10ヶ月間で、相手は相手なりのテーマを持って試合をしていました。日本を倒しにきたのは、スウェーデンで対戦したときの米国だけでしたので。ただ、W杯の前もそういう状態でしたけど。

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