「風の強い中、たくさんの方に来ていただき、ありがとうございます」
神戸ホームズスタジアムにブラジルを迎えて4ー1と撃破した直後、キャプテン宮間あやはピッチ上でマイクを向けられていた。「INAC神戸をよろしくお願いします!」
そう言って挨拶を終えている。凄い人だと思った。
彼女は岡山湯郷ベルの選手だから、INAC神戸はいわばライバルチームだ。ただ、会場が神戸だったから、ファンに応援を頼むなら地元のクラブがいいと思ったのだろう。
それよりも驚いたのは、冒頭の言葉だった。
当日、スタジアムの屋根は閉まっていた。少なくても試合が始まる1時間前から、宮間には「風が強い」という実感はなかったはずなのだ。まだ息も落ち着いていないような試合直後、彼女はスタジアムを埋めた観衆の立場で考えていた。「(風が強かったことが)何でわかったのかなー。でも、たぶん自分が試合を見に行った経験があるから、そういうことを言ったのだと思います。サッカーって、見に行くのけっこう大変じゃないですか。仕事もあるし、混雑しているし。だから、うれしくてそう言ったと思います」
視野の広さはピッチ上だけではないようだ。女性らしい気づかい、いちサッカーファンとしての感性、それもあるだろう。ただ、それだけではない気がした。
宮間にとってのオリンピックとは
――五輪は、宮間さんにとってどういう大会ですか? 男子で言えば、W杯が2つあるようなものですけど。
宮間 W杯と五輪、私たちは同じ気持ちですけど、一般の皆さんにとっては五輪のほうが認知されています。毎年W杯がある競技もありますから、W杯優勝よりも五輪のメダリストというほうが、多くの方にはわかりやすいと思います。
――男子のW杯で優勝する国は、だいたい以前に優勝している。一度、世界一を獲ったことでの変化はありますか?
宮間 同じ世界大会ととらえれば、一度見た景色なので、優勝をイメージしやすくはなります。けど、私たちは常勝チームではありません。W杯は「勝っちゃった」という感じもありましたから。W杯優勝で、五輪はより厳しい大会になるでしょう。男子の強豪国とは違うように思います。
――不安はありますか?
宮間 どうでしょう…結果に対する不安はないです。けど、もう一度後悔のない戦いができるかどうかは不安です。
――どうして?
宮間 スウェーデン遠征の米国みたいに、ガチの戦いを挑まれたときに、自分たちの力を出し切れるかどうか。予選が終わって10ヶ月間で、相手は相手なりのテーマを持って試合をしていました。日本を倒しにきたのは、スウェーデンで対戦したときの米国だけでしたので。ただ、W杯の前もそういう状態でしたけど。