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スペシャルインタビュー・宮間あや(岡山湯郷ベル)【サッカー批評 issue57】

text by 西部謙司 photo by Kenzaburo Matsuoka

相手が強いからミスするんじゃなく、技術の問題

――ところで、女子は男子以上に国際試合での体格の違いがありますが、そこはどう考えていますか?

宮間 米国でプレーする前にも、体力や体格の違いについていろいろ言われんですけど、私は何も考えていませんでした(笑)。

――いや、素晴らしい(笑)。大きいとかは関係ない、当たりに来ても平気だと。

宮間 自分はそうですね。結局、相手が強いから速いからミスするんじゃなくて、技術の問題ですから。

――本当はそうだと思います。当たられると思ってミスするのはフィジカルのせいじゃない。まだ当たられてないんですからね。

宮間 はい。でも、フィジカルのせいにしているところはあるかもしれません。

――米国でプレーしたことで、何か変化はありましたか?

宮間 自分らしくいられるようになりました。それまでは、代表だからきちんとしなきゃダメだとか、周囲の価値観にとらわれていましたけど、米国でいろいろな出会いがあって、自分を受け入れてくれる人がいて、何々じゃなきゃいけない、なんてことはないんだと。チームメートや監督を気にしすぎるのもよくないかなと思うようになりました。

――人として、自然なほうがいいと。

宮間 自分は周囲に恵まれて、3つのチームのどこでも幸せでした。

サッカーは、サッカーを超えていく

「私のすべてが出る、私のプレーを見て、生きていこうと思ってくれたり、つらいことがあっても頑張ろうとか、人の心を良い方向に持って行けるようなプレーがしたいです」

 いまではない。18歳の宮間あやが言ったという。「えーっ、そんなこと言ってましたっけ。フシギー。調子に乗ってたんじゃないですかね」

 照れていたが、いまでもその気持ちに変わりはないそうだ。サッカーは、サッカーを超えていく。「サッカーって、そういう要素があるんじゃないでしょうか。ユーロのイングランド対イタリアなんて、泣いちゃうぐらい素晴らしかった。サッカーを知らない人にも伝わるものが、サッカーにはあると思うんです」

 06年ドイツW杯、ブラジル戦で敗れたとき、中田英寿はピッチに倒れたまま涙を流していた。「私は中田選手より泣いてました(笑)。その後、テレビで引退を知ったときも3時間泣きましたけど」

 サッカーで伝わる思いがある。そういえば、女子サッカーをテコ入れした、当時の川淵三郎会長も、試合を見て心を打たれたのがきっかけだったそうだ。

 それにしても、18歳の女の子が高邁な理想を語れたのは、どうしたわけなのだろう。自分のことで手一杯なはずの年齢で、とても広やかにサッカーと世界を見ていたのは。「たぶん、私が見てきたサッカー選手たちが、表現し続けてくれたからじゃないかと思います。自分はそういうサッカーをしているから幸せで、だから私やチームを見た人にも何かを感じてもらえたらと」

 神戸で、一瞬にしてファンの立場に思いを寄せ、「風の強い中」と話し始めたのは、偶然ではないのだ。

 彼女はサッカーを呼吸している。

初出:サッカー批評issue57

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