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Jリーグ 11年前

柏レイソルの育成戦略が示す、日本的な育成システムの構築法

text by 小澤一郎 photo by Kenzaburo Matsuoka

プレイヤーズファーストの視点で環境整備

 また、「高体連かJユースか」という対立軸で語られることの多い2種の高校年代においても柏はプレーヤーズファーストの視点で環境整備を進めている。レイソルU-18の選手たちの8割が地元柏にある高校に通っていることから、現在クラブと学校側の実務者レベルでは、シーズン毎にその高校のサッカー部とレイソルU-18の選手の入れ替わりが可能なシステム作りについて話し合われている。

 スキームとしてはプロで行われている『期限付き(レンタル)移籍』と同じ。日本では、セレクションに合格して一度Jアカデミーに加入してしまうと、中学、高校の3年間が自動的に保証される。これには一貫指導できるメリットと同時に、3年間が保証されることによる競争(向上)意欲の低下を生み出すデメリットもある。ただし、柏が目指すのは、欧州や南米で採用されているような自然淘汰の競争システムではなく、あくまで「適した環境で適した選手がプレーできる」システム作りだ。サッカー大国の模倣ではなく日本的なシステム構築の意図について吉田氏はこう説明する。

「日本で自然淘汰される環境が少ないのは事実ですが、『ダメな選手だから入れ替える』『いい選手だから獲ってくる』ということが本当に正しいかどうかはわかりません。3年間いることで起こるデメリットを解決したいとは思いますが、切って捨てられるプレッシャーを与えるのではなく、目標やビジョンを共有する中で選手をモチベートし、上を目指す純粋な気持ちを指導現場で生かしていく。それは元来努力する精神や生真面目さを持つ日本人だけができる特別なやり方なのかもしれません」

「下から上につなげる」ボトムアップ方式の育成戦略が第2段階まで来ている柏レイソル。あくまで個人的な意見であり希望も入っているのだが、育成戦略の第3段階が完了した時には選手のみならず指導者までもがトップに吸い上げられるシステムが完成し、吉田達磨という人間が『監督』ではなくプレミアリーグのような『マネージャー』としてトップチームで長期政権を築いている気がする。

【了】

初出:サッカー批評issue57

プロフィール

吉田達磨
1974年生まれ、千葉県出身。柏レイソル強化本部長。東海大学付属浦安高等学校卒業後、1993年に柏レイソルに加入。97年に京都パープルサンガ(現京都サンガF.C.)に移籍。99年にモンテディオ山形に加入し、01年までプレー。02年にジュロンFC(シンガポール)で現役引退。同年、東海大学付属浦安高等学校サッカー部の臨時コーチを経験し、03年に古巣の柏U-18コーチに就任。その後U-15やU-18の監督などを経て、10年にアカデミーダイレクターとなる。11年より現職。

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