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プレミア流 ワイドアタックの戦術的進化(前編)

『マンU、トッテナム、アーセナル、ニューカッスルに見る“オープンスペース”有効活用法』
サイドからクロスを上げ、ゴール前では屈強な男たちが肉弾戦を繰り広げる。プレミアリーグでよく見る光景だ。昔からのスタイルではあるが、近年では戦術的な“崩し”が見られる。重要なのはクロスを上げる、そしてフィニッシュに持ち込むまでの過程だ。プレミアでの実例からワイドアタックの真髄を紐解いていく。

text by 河治良幸 photo by Kazuhito Yamada


伝統的にワイドアタックが好まれるイングランド【写真:山田一仁】

【後編はこちらから】 | 【欧州サッカー批評5】掲載

イングランドで伝統的に好まれるワイドアタック

 プレミアリーグのワイドアタックを解析的にまとめるのが本稿の目的だが、そもそもサッカーの母国であるイングランドにおいて、ワイドアタックは伝統的にとても重要な役割を果たしてきた。

 19世紀の半ばから近代的なルール化が進んだが、元来は前方の味方にボールを蹴り出すことすら禁じられていた。つまり手は使わないものの、もともと同じフットボールに起源を発するラグビーと、仕組みはほとんど同じだったわけだ。

 当時において、パスとは専ら横の味方に通すものであり、相手の守備を破るには外へ外へと展開していくことが求められた。そこから1866年に「3人制オフサイド」が導入され、1925年にはついに現代と同じルールへ変遷していく中で、フォーメーションもDF、MF、FWで構成される3ラインが整備されたが、ワイドアタックの伝統は根強く継承されている。

 現在でもイングランドにおいて、サイドハーフ(SH)のことを「フランカー」という、ラグビーと同様の言葉で呼ぶことがあるのは歴史的な名残だ。

 それに加え、イングランドでは団体スポーツにおいて、肉体の接触を好む伝統がある。そのためサイドからのクロスボールを巡り、屈強なアタッカーとマーカーが競り合う瞬間は、このスポーツの花形だったのだ。スペースの意識が浸透している現代においても、接触プレーを厭わない大型FWが好まれる傾向に変わりはない。

 そうした流れからも分かる様に、ワイドアタックは基本的にシンプルな展開からチャンスを作ることができる上、攻撃を外へと広げることで、中央の守備を開かせる効果を伴う。しかも、守備者というのは横からボールが入って来る時に、マークする相手と同時的に視野に捉えることは非常に難しいもの。守備戦術が発達した現代においては、中央の数的不利を避けるため、ワイドアタックを重視する傾向は世界的に出てきているが、イングランドはサイドの勝負からチャンスを作るスタイルが古くから根付いているのだ。

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