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日本サッカーの生きる道―日本が世界一になるための真のポテンシャルを読み解く(前編)

日本は世界一になることができるのか? 日本の真の可能性を読み解くために、まずは巷で囁かれる日本サッカーについての定説や常識を疑ってみることから始めたい。そして世界と日本のバルセロナ化の未来についても考察していく。

text by 西部謙司 photo by Kenzaburo Matsuoka


ブラジル人は「Jリーグはスピードが速い」と言う【写真:松岡健三郎】

【後編はこちらから】 | 【サッカー批評issue56】掲載

Jリーグは速い?

 日本に来た外国人選手、とくにブラジル人は「Jリーグはスピードが速い」と言う。

 しかし、Jリーグの何もかもが速いわけではなく、逆に遅い部分もある。

 まず、何が速いかというと、守備のときに組織を作るのが速い。持ち場のポジションに入る速さであり、隊列を組む速さだ。

 この組織化の速さは、2010年W杯で遺憾なく発揮されていた。

 当時の岡田武史監督は、国内での壮行試合となった韓国戦の敗戦をうけ、守備型の戦術へと舵を切っている。あまり準備期間もない中で、穴のないブロック守備を築き、それがグループリーグ突破の原動力となっていた。

 ごく短期間に緻密な守備を構築できたのは、日本選手にもともとそうした資質があったからだ。

 日本の選手は中学生ぐらいから、ゾーンディフェンスのポジショニングに習熟している。ポジションを埋め、修正する、そうした勤勉さを要求する動きは得意で、外国人指導者がまず驚くのはこの部分でもある。

 守備の組織化が速いので、相手はパスを受けるのも出すのも難しい。ボールを受けてルックアップすると、どこにもパスの出しどころがない、あっというまに“詰み”になっている。そういう状況を体験すると「速い」という印象を持つ。

 両チームの守備が速いと、とくに試合の序盤はリスクを避けるためにロングボールの応酬となることも多く、そのときは落ち着かない展開になる。ボールが頭上を飛び交っているようなサッカーだ。ヨーロッパでイングランドのプレーが「速い」と言われていたのと同じ状況である。ただ、Jリーグはポゼッション指向のチームが多いので、15分をすぎるとペースダウンする傾向が強いが。

 小柄で敏捷なタイプが多いので、守備時の寄せが「速い」ということもある。そういう選手は相手に当たられないように、素早くボールを離すので、それも「速い」という印象につながっているかもしれない。

 相手の寄せの速さを意識すると、後方からゆったりとビルドアップする余裕がなくなり、緩急がつかなくなって、一本調子の速いだけのリズムになってしまうこともある。

 ブラジル選手などが言う「速い」は、Jリーグの長所であるとともに、「拙速」につながる短所と見ることもできる。

 単純に走るスピードが速いわけではなく、ボールコントロールや判断のスピードも、ヨーロッパのCLクラスと比べれば、むしろ遅いほうだろう。

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