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日本サッカーの生きる道―日本が世界一になるための真のポテンシャルを読み解く(前編)

text by 西部謙司 photo by Kenzaburo Matsuoka

引かれると点はとれない?

 相手チームに全員引かれて守備を固められれば、得点しにくいのは確かである。それはバルセロナといえども変わらない。ただ、バルセロナは「引かれたら点はとれない」というサッカー界の〝常識〟を覆したチームでもあると思う。

 古い話になるが、60年代の後半に英国のチャールズ・ヒューズというFAのコーチが『ウイニング・フォーミュラ』という本を著した。“ダイレクト・プレー”の考え方を広めたのはこの本の影響が大きいと言われている。そこで引用されていた有名なデータが、「5本以上パスがつながった後はほとんど得点の可能性がない」というものだった。だから攻撃はなるべく速く、直接的に行うべきだというのがダイレクト・プレーである。

 一方、現在バルセロナが行っているのは、典型的なポゼッション・プレーであり、遅く攻めても点はとれることを証明している。

 バルセロナは速く攻め込むことよりも、ボール支配に重きを置く。局面で数的優位を作り、ボールを確保したうえで攻め込むことが多いので、相手にはとっくに引かれているのだが、点はとれているし、そもそも相手に引かれることを何とも思っていない。

 相手が全員引いているような状態でも、まず中盤を支配して守備が機能しないようにすれば、やがて本丸である最終ラインも崩せると知っているからだ。

 戦術的なポイントは、サイドの高い位置に張る選手がいる一方で、CFがいないこと。

 押し込んでいる状況で、両サイドにバルセロナの選手がいると、相手が4バックの場合、4人がその場から動けなくなる。CBが誰もいないゾーンを守っていることになるが、そこにバルサのFWがいないからといって、CB2人が前に出て中央部を空けてしまうことはありえない。つまり、多くの場合でバルセロナの2人(サイドに張る選手)によって、4人のDFは最終ラインに釘付けになる。

 したがって、バルセロナ2人vs4バックが確定した時点で、その他の地域でのバルサ8人vs6人となる。バルサは最前線以外は2人の数的優位を持っているので、ボールは支配しやすい。ここを完全に支配してしまえば、いずれCBは前に出て対応せざるを得ない状況が生まれ、中央部にスペースを作りやすくなる。大雑把に言えば、ここまでの手順がはっきりしているので、相手に引かれても崩せるし、点もとれると信じているわけだ。

 もちろん、バルサと言えども相手に引かれれば点をとりにくいのは確かであり、バルサほどの技術も戦術もないチームにとっては、さらに得点は難しくなる。

【後編に続く】

初出:サッカー批評issue56

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