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Jリーグ 11年前

検証・移籍ルール変更後のJリーグ ~Jクラブは直面する現実にどう対処すべきか?~(後編)

text by 小澤一郎 photo by Ryota Harada

ルールの是非を問う前にやるべきこと

 個人的にはもっと踏み込んで、移籍金のコミッションビジネスがあっていいと考えている。欧州では、所属クラブの意向に沿って移籍金をしっかり取ってきたエージェントに対価として数パーセントのコミッションを支払うビジネスが主流。FIFAルールでは、選手とクラブの両方から対価をもらう相互エージェントは禁止されているが、フランスなどでは法律上選手ではなくクラブがエージェントにお金を支払うことが決められており、移籍金コミッションが制度的にも容認されている。

 Jクラブが選手・エージェントと一緒になって「移籍金をとる」という考えや仕掛けはあっていいし、そうなれば契約満了に伴う0円移籍が続出するような事態は避けられるかもしれない。今は「ただで獲れる」と考えている欧州クラブも代表選手や若く才能ある選手であれば、数千万円の移籍金を用意できる。その移籍金にコミッションを発生させ、クラブとエージェントの双方が利益を得ることは何ら悪いことではないだろう。

 また、鹿島が伝統的に、甲府が積極的に取り組むのがクラブへの愛着、帰属意識を持った選手の育成。例えば鹿島はすでにクラブとして新卒のプロ選手に2、3年かけてクラブの基本的な考え方、色を理解してもらう教育メソッドを体系化している。内田篤人が海外移籍を希望しながらも「出るからには移籍金を残したい」と鹿島との長期契約に応じた点は、単に内田の義理堅い性格によるものではないはず。

 甲府も子供の時からクラブのマインドを理解し、甲府で育ち、成長して出て行く時には恩返しをしたいと考える選手を育てる意識を持って育成の強化をはかっている。

 世間一般的には複数年契約が契約満了に伴う0円移籍の唯一絶対の手段だと認識されており、それは表面上は正しい。しかし、現実問題としてJクラブが主力選手に複数年契約を提示しながら拒否される事態が起こっている。日本人選手がより高いレベル、厳しい環境を求めて欧州移籍を目指すことはこれまでにもあった流れで、そのために選手は長期契約による足かせを嫌い、時に年俸ダウンを受け入れてまで海外に挑戦する。

「フットボーラーも一般的な社会人であり、自分が自分の人生のために上を目指したり、自分の目的を遂行するために自分の考えを押し通すことは何ら悪いことだとは思わない」という田邊氏の意見は受け取り方によってはエージェントとしての利己的発言に聞こえるかもしれないが、田邊氏が指摘したいことはもはやJクラブはお金や小手先の契約・交渉テクニックで選手を囲い込めなくなっている現状だろう。

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