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バートンに騙されるな ~プレミアきっての問題児の実像~

text by 田邊雅之 photo by Kazuhito Yamada

やっかいなのは選手としての実力があること

 たとえば刑務所から釈放された際は「74日間の監獄生活は2年間にも感じられたよ。あの経験で自分にとって本当に大切な物がわかった。(暴行事件を映した映像を見た時には)、自分の姿じゃないみたいだった……」などとしおらしく語っている。また、極端な短気を治すためにカウンセリングを受けたこともあるが、しばらく経つと再び悪童ぶりが顔をのぞかせる。

 バートンが改心していないことは、昨シーズンのプレミア最終節、QPR対マンチェスター・シティ戦を思い出してもらえればわかるだろう。この試合でバートンはテベスに肘打ちを見舞い、一発でレッドカードを出されている。チームが降格の瀬戸際に立たされていたことを考えれば、まさに噴飯物だ。

 ちなみにバートンは試合後、サポーターの怒りをさらに買っている。彼は90年代イギリスのロックバンド「ザ・スミス」の大ファンを公言しているが、彼らの歌詞を引き、「人生にはもっと明るいこともあるさ」と、まるで他人ごとのように呟いてみせたのだった。

 ただしバートンが本当の意味でやっかいなのは、選手としての実力もそこそこある点だろう。「ジャック・ウィルシャーも悪くないが、フランク・ランパードは下り坂だし、スティーブン・ジェラードは怪我ばかりしている。イングランド人のミッドフィルダーでは、俺が一番優秀だと思う」という戯言は無視していい。

 だがキックの正確さと視野の広さ、フリーランやポジショニングの的確さなどで、バートンがプレミアの平均的な選手を上回っているのは事実だ。

 現にマンチェスター・シティ時代にはチームの得点王になったこともあるし、アンディ・キャロルがニューカッスルでゴールを量産できたのは、バートンの正確なフィードに負うところが大きい。

 また、これはあまり知られていないが、2007年にオールド・トラッフォードで行われたスペインとの親善試合では、イングランド代表として初キャップも得た。他のメンバーの猛反対によって招集は一度限りとなったものの、そもそも選手としての能力が高くなければ、ニューカッスルが契約を結んだり、チーム強化の一環としてQPRバートンを招き寄せることもなかったはずだ。

 同じようにややこしいのは、バートンが相応の知的水準の持ち主でもある点だ。イギリスで大学進学を目指すには、16歳で義務教育を終えた時点でGCSEというテストを受けなければならない。バートンは10の科目をクリアーしていたということで周囲の人間を驚かせた。ちなみにルーニーは全滅である。

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