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在日と帰化 アイデンティティと格闘する在日フットボーラーの軌跡(中編)

text by 河鐘基

李忠成の帰化は、他のサッカー選手の帰化とは大きく異なる

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現在FC東京に所属の李忠成【写真:編集部】

 彼が「帰化」という選択を下したとき、ネット上ではさまざまな誹謗中傷があった。日本人には「韓国人なんていらない」とはねつけられ、韓国人には「裏切り者」とされ、同じ出自である在日コリアン社会に与えた波紋も計りしれなかった。

 というのも、在日コリアンの帰化者は年間1万人強とされているが、民族的出自の愛着や一世の代から守られてきた「国籍」に強いこだわりを持つ一部の人々の間では、今でも帰化に対してネガティブ・イメージが残っており、タブー視する傾向がある。帰化=悪と決め付け、まるで罪人扱いするような人々もいる。李忠成の父親も、とある在日の知り合いから「息子を帰化させられるとは、一体、何を考えているんだ!」と、厳しくなじられたという。

 生まれ育った日本の目、ルーツがある韓国の目、そして同じ出自を持つ在日の目。李忠成の帰化は、立場と価値観が異なるさまざまな目にさらされたのである。

 ただ、李忠成はその決断を悔やんではいない。彼は語っている。

「日本に帰化した僕の決断に賛否両論があることは知っています。でも、僕は自分の選択を後悔していません。在日でも日本社会に貢献できることを示したかったし、日本の在日の人たちの力になれればいいと思って決断しました。4世、5世となった在日の中には、自分の立ち位置っていうか、自分がコリアンだということを隠している人も多い。

 そういったネガティブに考える後輩たちに、自分のルーツ、コリアンとしての誇りを持って、ポジティブに生きようと伝えたいから、帰化しても李という名前にはこだわった。李という名は、自分がコリアンだということを示しているし、帰化しても、李でも頑張れるんだっていうところを見せたいという気持ちは強い。僕が頑張ることで、社会に何らかのメッセージを伝えたいんです」

 日本、韓国、在日社会に何らかのメッセージを伝えたい。そうなのだ。彼の決断は大きな波紋を呼んだだけメッセージ性は強い。

 誤解を恐れずに言えば、ほかのサッカー選手との帰化とは大きく異なる。

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