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「世界の壁」は本当にあるのか?

text by 宮崎隆司

謙虚さに裏打ちされた高いプロ意識

 ひとつ身近な具体例を挙げたい。ここイタリアに生まれた純然たる日本人の子供たちがフィレンツェやローマなど、国内各地のクラブの育成組織でサッカーをやっている。その技術レベルや備えている能力の質は、お世辞にも将来を嘱望されるものではないものの、かといって他のイタリア人たちと比較して遜色があるかと言えばそうではない。ひいき目ではなく、まったくの互角である。

 加えて、その日本の子供たちに見られる共通の資質(礼儀正しさ、敗戦を受け入れる度量と潔さ、指導者や審判に対する敬意、練習や試合後に率先して後片付けに走る律儀さ……等々)は、どれを取ってもイタリアの子供たちより抜きん出ている(まぁ、比較の対象があのイタリア人だから……とは、ここはひとつ堪えて言わずにおこう)。

 いずれにしても、前述の資質ゆえ技術的には中の下であっても周囲からリスペクトされ、信頼される子供たちが多く、中には「主将」の腕章を腕に巻く子供もいる。

長谷部誠
長谷部誠【写真:工藤明日香(フットボールチャンネル)】

 周囲からリスペクトされ、信頼される存在。その最たる例が今で言えば長友、長谷部ということになるのだろう。“ピンチに怯まず、チャンスに驕らず”の姿勢と、それを支える精神、すなわち謙虚さに裏打ちされた高いプロ意識は、日本人選手の傾向として強く見られるストロングポイントであることは疑いようがない。

 決して超一流の選手ではなくとも、長友や長谷部的な選手が今後もさらに増えていくとすれば、それは「日本サッカー界全体の底上げ」に直結するはずである。

 確かに文化としての重み、深さはなおも欧州に一日の長があり、積み重ねてきたプロリーグの歴史の質量ではまだ及ばない。よって相・対・的・な力という意味でのいわゆる「差」が皆無だとまでは言わない。ただ、この本来は容易には埋め難い差(=膨大な歴史の差)を日本は実に日本的な努力によって着実に埋めているのもまた事実である。

 日本ほどマジメにサッカーを論じ、真摯に向き合っている国は他にどこがあるだろう? 質・量ともにまだまだ上を目指すべきだと思うが、指導書などを初めとするサッカーに関連する刊行物の多さ、熱心にサッカーを教える指導者の豊富さと情熱、例外なく全力を尽くす選手たちの姿は、間違いなく世界でも誇れるレベルにある。

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