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Jリーグ 11年前

手倉森誠監督の覚悟――6年目を迎えるテグ流マネジメントの真髄(前編)

text by 戸塚啓 photo by Kenzaburo Matsuoka / editorial staff

「当事者意識」を持たせるためのアプローチ方法

 J1へステージをあげたクラブの多くは、外国籍選手の存在を強みとしてきた。センターラインの補強は昇格への王道である。

 手倉森の考えは違った。困難な編成を奇貨として、チームをたくましくしていくのである。

「就任1年目ですから、普通なら外国籍選手は欲しい。でも、日本人選手に『自分がこのクラブを押し上げた』という当事者意識を植えつけるには、むしろ好都合だった」

 シーズン途中でブラジル人FWを補強したものの、手倉森の狙いは現実となる。日本人選手の意識に、変化が芽生えていったのだ。

「自分たちが核となって、ジュビロとの入れ替え戦まで可能性をつないだ。その悔しさを糧に選手たちが成長して、翌シーズンにJ2で優勝することができたんです」

 ピッチ内だけではない。「当事者意識」を持たせるために、手倉森は様々なアプローチをしていく。

 ホームゲームでブーイングを浴びせたサポーターと、クラブハウスで対話を持った。殺気立った雰囲気のなかへひとりで飛び込み、辛抱強く問いかけた。

「監督だけじゃ選手を育てられない。彼らの成長にはサポーターの支えが絶対に必要だから、息子のように見守ってほしい。自分の子どもを自立させる気持ちで、このチームに関わってほしい、と話しました。同時に、選手たちにはサポーターを怖がるな、と。親身になってオレたちを支えてくれる。勝つことだけを求めて、負けたからといって批判するような集団じゃないぞ、と伝えました」

 チームのためになるなら、フロントに意見することも躊躇わなかった。議論を戦わせていく過程は、丹治祥庸強化部長との二人三脚でもある。彼らの密接な関係は、日本人監督にありがちな障害をも取り除いていく。

「たとえばシーズン途中で低迷すると、外国人監督はフロントと話し合う。でも、日本人監督は、というより日本の社会では、上司に『大丈夫か?』と聞かれても『大丈夫です』と返しがちじゃないですか? それだと、問題点を吟味しないことになってしまう。我々はフロントと強化部長が話をしていますが、月に数回は僕も同席します。そこで意見をぶつけることができる」

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