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連載コラム 10年前

W杯前に知っておくべきブラジルフッチボール。菅原智の挑戦。果てしなき王国の魅力・その1

地球の裏側へ。「すげえところに来ちゃったな」

 地球の裏側に行くというのに、不思議と不安はなかった。年明けすぐ、菅原はサンパウロ行きの飛行機に乗った。到着翌日、サントスFCのクラブハウスの前で選手たちと合流、バスに乗ってキャンプ地に向かった。

 辞書は鞄の中に入れていたものの、ポルトガル語は挨拶程度しかできない。ヴェルディの同僚だったアルジェウ、カイコ、フィジカルコーチのバウミール・クルスがいることが多少の気休めだった。

 キャンプ地はサンパウロから70キロ離れたジャリヌという街にある『サンタ・フィロメナ』という施設だった。丘陵地帯にあり、百人程度宿泊可能な平屋建ての建物、芝生の練習ピッチ、プールを備えていた。

 部屋は3人部屋だった。初日は丘陵地帯を走らされた。3日目からボールを使った練習が始まった。練習自体はレオンが監督をしていたヴェルディと同じで、言葉がわからなくても問題はなかった。

 ただ、その精度とスピードが違っていた。スピードというのは走る速さではない。プレーを考える速度、判断の速さが桁違いだった。もちろん足元の技術は正確だった。ピッチの芝の足が長く、ドリブルすると蹴るというよりも運ぶような感覚があった。彼らはこうした芝の癖に合わせて、蹴り方を調節していた。

「すげえところに来ちゃったな」。思わず独り言を呟いた。

 幸い彼は楽観的な性格だった。もうここまできたら一生懸命やるしかないなと肚を決めた。

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