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連載コラム 10年前

W杯前に知っておくべきブラジルフッチボール。優勝しても批判、セレソンを左右する“フッチボウ・アルチ”の文化

勝つだけでは物足りない文化

W杯前に知っておくべきブラジルフッチボール。優勝しても批判、セレソンを左右する“フッチボウ・アルチ”の文化
ドゥンガはキャプションとして94年W杯を優勝に導く。しかしこのチームは国内であまり評価されていない【写真:Getty Images】

 フッチボウ・アルチ(芸術サッカー)あるいは、ジョーゴ・ボニート(ビューティフルゲーム)――ブラジル人がしばしば口にする言葉である。

 勝つだけでは物足りない。攻撃的に華麗にパスを繋いで勝つこと――。

 セレソンは長らく、このフッチボウ・アルチの軛に縛られて、70年W杯以降、優勝から遠ざかっていた。94年のアメリカ大会のセレソンはその呪縛を恐れず、効率的なサッカーで優勝を成し遂げた。

 セレソンのサッカーはフッチボウ・アルチという振り子に大きく左右される。

 例えば、2006年ドイツ大会のセレソンは、ロナウド、ロナウジーニョ、ロビーニョ、カカ、ロベルト・カルロス、アドリアーノ、ジュニーニョ・ペルナンブッカーノ、ゼ・ロベルト――才能に溢れた選手が揃っていた。

 彼らは82年以来のフッチボウ・アルチを具現化できるはずのチームだった。ところがブラジルは準々決勝でフランスに敗れた。大会中、チームの規律が乱れていたことも分かった。

 そして次の大会に向けて振り子が逆側に振れた。

 監督となったのはアンチ・フッチボウ・アルチの申し子ともいえるドゥンガだった。彼は94年W杯で優勝したときのキャプテンである。

 ドゥンガは美しくないサッカーだったからこそ、優勝を強く期待されていた。ところが、2010年南アフリカ大会では準々決勝でオランダに敗れた。そして優勝したのが、魅力的な攻撃をするスペインだったことは、ブラジル人を深く落胆させた(さらに言えば、アンチ・フッチボウ・アルチの代表であったドイツ代表がエジルたち若い選手たちを登用して、良質なサッカーをしたことも)。

 では、その振り子が形作られた、70年W杯のチームとはどのようなものであったのだろうか――。

 ペレ、リベリーノ、トスタン、ジャイルジーニョ――煌めく選手の中でキャプテンマークを付けていたのは、カルロス・アルベルト・トーレスだった。

【次週に続く】

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