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CL惨敗も、期待を抱かせるに足るペップ・バイエルンの潜在能力

2013-14シーズン、ペップ・グアルディオラが率いるバイエルン・ミュンヘンはチャンピオンズリーグ連覇こそ逃したものの、国内2冠を達成した。5/28発売の『ペップの狂気』(カンゼン)では、グアルディオラ監督が就任する以前から、バイエルンはペップのサッカーを受け入れる素地を持っていたということが詳細に描かれている。

text by 鈴木達朗 photo by Ryota Harada

バイエルンでこそ、ペップのサッカーができる

 現地時間で2014年の3月25日にグアルディオラ率いるバイエルン・ミュンヘンは史上最速で優勝を決めた。グアルディオラにとっては異国の地で、言語もままならない環境の中で、彼が率いるバイエルンは1年目のシーズン開幕から順調に勝ち点を重ねていった。それを可能にしたものは何だったのだろうか? 拙訳『ペップの狂気』の一部を参照しながら、今シーズンのペップ・バイエルンを振り返っていく。

CL惨敗も、期待を抱かせるに足るペップ・バイエルンの潜在能力
ジョゼップ・グアルディオラ監督【写真:原田亮太】

『ペップの狂気』の中で、ファン・ハールの残した遺産と首脳陣との確執、そしてペップの前任者であるユップ・ハインケスについてページを割いている章がある。そこでは、ファン・ハールの良かった点と悪かった点の評価、そしてドイツ国内に留まらなかったがゆえに過小評価されてしまったユップ・ハインケスのオランダサッカーないしクライフへの傾倒、スペインでの監督経験、そしてそれゆえに、ドイツ人としては珍しいほどに戦術に精通していたことが書かれている。

 本書の中で、ファン・ハールの遺産として「ポゼッションを重要視すること、ホルガー・バートシュトゥバーやトーマス・ミュラーのように、自前の育成アカデミー出身の若手選手を登用する勇気」が挙げられている。著者は本書の中でペップとファン・ハールのポゼッションの質の違いについて指摘しているものの、ペップが好むオランダサッカー特有の考え方、つまりテクニックを重視し、システマチックでボールを大事にするという点において、その下地を準備したとしている。

 だが、グアルディオラの仕事が順調に始められたのは、ハインケスという、ドイツ人でありながらクライフに傾倒し、スペインで監督として活動してきた監督が前任者だったことが、何よりも大きいだろう。

 ハインケスは、グアルディオラが選手だった時代のドリームチームを率いたクライフと1993年に雑誌『キッカー』の中で対談している。その中でハインケスはこう言っている。
「スペインやイタリアのクラブに対して、ブンデスリーガのクラブは技術的にも、戦術的な内容においても、個人の能力においても欠陥がある。(中略)今の選手はポジショニングが大きく間違っている。どこへ走るのか、ボールを受けるときにどのようにコントロールするのかもわかっていないし、それどころか、まともに走れない選手までいる」

 つまり、外国で経験を積んだハインケスの目には、ドイツサッカーは結果こそ出していたものの、プレーの質において勝利を収めていたわけではなく、フィジカル面で優位に立っていたに過ぎないと映っていたのだった。

 著者によれば、ペップが監督に就任した際、彼の師とも言われるフアン・マヌエル・リージョも、バイエルンがペップのサッカーを実践するための条件が整っていると見ており、次のように言っていた。

「バルサのようなサッカーに近くなれば近くなるほど、サッカーというゲームそのものを理解することが必要になってくる。そしてバイエルンにはそれができる選手が揃っている。たとえばミュラー、ラーム、アラバ、そしてリベリ。トーマス・ミュラーは、グアルディオラがとても好んで高い評価をするタイプの選手だ。なぜならペップにとっては、インテリジェンスに富み、それをピッチの上で実行してみせる選手こそが重要だからだ」
この下地を築いたのが、ファン・ハール、そしてハインケスだったのである。

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