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暴走はなぜ止まらないのか?「新国立競技場問題」の核心(その1)

新国立競技場問題が混迷するなか、後藤健生の手によって、『国立競技場の100年――明治神宮外苑から見る日本の近代スポーツ――』という一冊の本が生み出された。国立競技場の歴史を紐解き、その将来像を描き出した渾身の書である。そこで、64年の東京五輪を国立競技場で観戦していた後藤健生と佐山一郎が、「巨大スタジアム」をめぐって論議した。

text by 佐山一郎

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「聖地」という美称の流布に反省の余地あり

暴走はなぜ止まらないのか?「新国立競技場問題」の核心(その1)
『国立競技場の100年─明治神宮外苑から見る日本の近代スポーツ─』(ミネルヴァ書房)。国立競技場というスタジアムの歩みを通して日本の近代史を読み解く、年表と人名/事項索引付きの大著

佐山一郎(以下、佐山) 今、フットボール関係者に突きつけられているのが2020年東京オリンピック・パラリンピックとセットになった「新国立競技場問題」。「聖地」という美称の流布という点では初期に片棒を担いだ自覚もあって、今更ながら反省しています。

 じっさい、陸上競技用トラックのある国立競技場自体がサッカーの「聖地」としての用件を満たしているのかとなると甚だ心もとない。神宮の内・外苑全部ひっくるめて「聖地」というのならまだ分かるんだけど。

後藤健生(以下、後藤) ウェンブリー・スタジアム(9万人収容)がイングランド・サッカーの「聖地」と呼ばれるのとは、まったく違うね。陸上競技場の割には、サッカーも見やすくて僕は高く評価しているんですけどね。

佐山 それにしても、『国立競技場の100年』(ミネルヴァ書房)の著者である後藤健生が、なぜ「国立競技場将来構想有職者会議」(施設建築WG座長・安藤忠雄)に選ばれなかったのか。ぼくには不思議でしょうがない。だてや酔狂で1964年の東京オリンピックから5000試合以上を現場で観て来たわけじゃないわけだし。

後藤 出版のタイミングとしてはIOC総会での招致決定前後に照準を合わせていたんだけど、刊行が遅れたことで終章「二〇二〇年オリンピック開催と国立競技場の将来」を追加することができて逆によかったのかもしれない。この本のアイデアは10年以上前からあったんです。かなり本気で始めました。「自分でもこういう本なら読みたい!」というのが、まずもって書く上では大事だよね。

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