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PSGの独走に待ったをかけるのはマルセイユか。フランスに活気をもたらす狂気の男、ビエルサ

text by 小川由紀子 photo by Getty Images

早くもビエルサらしさが見られたマルセイユ

 彼がクレイジーたる所以だが、フットボールのことになるとそれ以外のことについてはまったく眼中に入らなくなるほどのめりこみ、ときに狂信的な行動をとるからだと言われている。

 監督として駆け出しだった、地元アルゼンチンのニューウェルス・オールドボーイズ時代には、「良い選手がいる」という噂を聞けば、何100キロ離れていようとも、夜通し車を走らせて視察に行っていた、というエピソードもある。

 マルセイユ監督に着任し、6月末に始動したときには、選手たちについて、ありとあらゆる情報を知り尽くしていたことで、彼らを驚かせた。オフ期間は、朝、晩の2部練習で徹底的なフィジカルトレーニングを敢行、その合間にはビデオ学習の時間もあり、選手たちはかなり実の濃いプレシーズンを過ごした。

 そうして迎えた開幕戦には大いに注目が集まったが、結果は、監督1年生のクロード・マケレレ率いるバスティアに3-3のドロー。メディアの論調は、「期待はずれ」と「まだ判断するには早い」という両極端に割れているが、ビエルサが、彼独自のやり方で、マルセイユを成功に導こうとしている野望は大いにうかがえた。

 リーグアン初陣となるこの試合に、新指揮官は、新たな3バックシステムで挑んだ。しかもその一角を任せたのは、まだプロ契約もしていない19才のアカデミー生、スパラーニャ。内転筋を傷めて46分に退いたが、3-1でリードしていたのを後半になって2点返されたのは、彼が交代してバランスが崩れたせいでもあった。

 ボール奪取に長けたインビュラをアンカーに据え、両サイドバックのメンディとジャジェジェを5バックにスイッチ可能な位置に配したこの策の利点のひとつは、ウィンガータイプの攻撃的MFは豊富だが、純然なセントラルMFの人材がおらず、中盤での支配力が弱かったこれまでの欠点を解消できることだ。

 そしてもうひとつ、今季マルセイユは、これまでチームの絶対的な支柱だったバルブエナを手放している。彼の穴を埋める人材を求めるよりも、システム全体を変更することで、“バルブエナロス”を軽減できる。

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